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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第53話 バトルフラッグ③

挿絵(By みてみん)




 カンカンカンと、格子状の床を叩く音が鳴る。


 自動拳銃を下手に構え、周囲を警戒しつつ、先に進む。


 足元には製鉄用の釜のようなものと、ベルトコンベアが見えた。


 辺りはサウナのように蒸し暑く、汗がジワリと湧き出てくるのが分かる。


「……少し、休ませてもらっても、いいですカ?」


 暑さに参ったのか、後方から声をかけてきたのは、蓮麗。


 その手に握っているのは、ドイツ製の自動拳銃。マカロフPM。


 黒色のフォルムに、茶色のグリップで、サイズはかなりコンパクト。


 装弾数は八発。予備のマガジンは二つ。道中に落ちていた収集品だった。


「我慢してください。ここで休んだら、的になりますよ」


 前方にいるジェノは、歩みを止めずに告げる。


 手には、改造が施されたグロッグ17を持っていた。


「…………もう無理。限界なんヨ」


 忠告に従わず、蓮麗は溶けるように膝を崩し、その場で屈む。


 明らかにスタミナの限界。今の彼女に無理強いするのは酷かもしれない。


「仕方ないですね。少しだけですよ」


 渋々了承し、ジェノもその場に屈み込んだ。


 正直に言えば、休憩したい気持ちは同じだった。


 ここに来てから、常に狙われてるような感覚がある。


 気を張り過ぎるせいで、体の疲労感が半端じゃなかった。


 とはいえ完全に気を抜けるわけもなく、周囲の警戒は続けた。


「「………………」」


 特に雑談に興じることもなく、沈黙の間が続く。


 ペラペラと話せば、位置が特定される可能性がある。


 相手は全く知らない人だし、むしろ、自然な流れだった。 

 

「……あの、どうして俺なんかに、敬語を使うんです?」


 ただ、二人きりで話せる、またとない機会。


 ジェノは声のトーンを落とし、話を切り出した。


「それは……仕事柄ですネ。カジノのディーラーは、ただでさえ恨まれやすい職業。舐めた態度を取れば、敵を作るだけですカラ、年下相手でも分け隔てなく、敬語を使うのが無難だと考えておりますヨ」


 独特なイントネーションで、蓮麗は語った。


 内容に破綻も矛盾もなく、一見、筋は通ってる。


 ただ、どうも引っかかった。模範解答感が拭えない。

 

 本命を隠蔽するためのカモフラージュのような気がした。


「半分は事実でしょうが、それだけに思えません。……俺の何を知ってる」


 トーンを落とし、脅すように語りかける。


 意思の力は使えないし、襲う気はサラサラない。


 ただ強気な態度に出れば、ボロを出す可能性があった。


「何も知りませんヨ。今日会ったばかりの殿方。面識は一切ありませんネ」


 蓮麗は両手を上げ、シラを切っている。


 もっともな反応だったけど、どうも胡散臭い。


(念のため、もう少し強めに探ってみるか……)


 気が進まなかったけど、向けるのは銃口。


 引き金に指をかけ、柄にもない態度で言った。


「隠し事があるなら先に話せ。素直に従えば、悪いようには――」


 痛まない胸に違和感を覚えつつ、脅し文句を口にしようとする。


「あ……」


 しかし、相手はバツの悪そうな表情を作っていた。


 脅しが機能しているかとも思ったけど、違う気がする。


 もっと別の要因。隠し通すよりも重大な問題が迫った感じ。


(何が……)


 自然と彼女が向ける視線に釣られてしまう。


 見えたのは、赤い照準。場所は、こちらの左胸。


 置かれている状況から考えれば、すぐに察しがつく。


「…………危ないネ!!!」


 直後、鬼気迫る蓮麗の声が聞こえると、遠方からは銃声が鳴り響いた。

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