第52話 バトルフラッグ②
工業地帯から歩みを進め、たどり着いたのは、発電所に通じる搬入口。
車の出入りを管理する入場ゲートがあり、付近のコンテナ裏で停止する。
中腰の体勢で座り込み、背中合わせの状態で、束の間の休息が訪れていた。
「背後は見ておく。正面で分かったことがあれば、報告してもらえるか?」
マクシスは辺りを警戒しつつ、静かに言った。
ここまで武器は拾えず、回収したアイテムもなし。
拾った武器でしか敵を倒せないルール上、丸腰に近い。
仮に敵と遭遇すれば、成す術なく、蹂躙されてしまう状態。
だからこそ、声音は真面目そのもので、緊張感が伝わってくる。
「…………了解っす」
コンテナから顔を出し、メリッサは真剣に偵察を始めた。
搬入ゲートは一つ。その周辺は有刺鉄線フェンスに囲われる。
ゲートを抜けた先には、変圧器、送電鉄塔、発電施設が建ち並ぶ。
施設同士は複数のパイプが接続され、奥にある製鉄所に繋がっていた。
恐らく、鉄鉱石を熱処理する際に生じる、ガスの圧力を利用した発電方法。
――炉頂圧発電。
電力は、製鉄時の熱エネルギーで自給自足。
外部から引っ張ってくるより、遥かに効率が良い。
独創世界なのに、現実と思うほどのリアリティがあった。
「入り口はゲートのみ。人影はなし。電力は製鉄所に依存してる感じっすね」
メリッサは、視覚的に得た情報を簡潔にまとめる。
これまでの行動方針は、全てマクシスに一任していた。
理由は、実際の戦場で市街戦の経験していたことが大きい。
ダンジョンでの経験はあっても、市街地での戦闘は慣れてない。
餅は餅屋。下手に口出しせず、プロに頼るべきと考えた結果だった。
「……やはり、ここを最初に選んで正解だったようだな」
するとマクシスは、調子良さげに語る。
開始地点近辺から、選べたルートは三つ。
製鉄所。発電所。化学工場。このいずれか。
なぜ、ここを選んだのかは不明なままだった。
「具体的には、どういうところがお気に召したんすか?」
すかさずメリッサは、探りを入れた。
発言内に気に入ったものがあるのは確定。
回りくどいことは言わず、本題に切り込んだ。
「警備が手薄な点と、発電方法を知れた点の二つ。……こいつは攻略が捗るぞ」
声を押し殺しながらも、熱がこもっていた。
確かな手応えを感じているような反応を示している。
「前者は……まぁ、分かるっすけど、後者はなんでなんすか?」
ただ、分からない部分も多い。
無知を自覚しつつ、質問を重ねた。
「まず前提として、旗は全部で三枚あると言われていたが、恐らく、製鉄所、発電所、化学工場にそれぞれ一枚ずつ配置されると考える。その中で、難易度が低い地点を攻略した方が効率がいいわけだが、警備が手薄な時点で、低難易度は確定。最初に選ぶ地点としては大当たりだ。デメリットとして物資がしょっぱいが、旗を楽に見つけやすい状況にある。ここで見つかれば、万々歳だが……旗を見つけられなかった場合にも、セカンドプランとして、ここの発電方法が役に立つ」
淡々と語られるのは、概要だった。
具体的なプランの内容とは言えないもの。
ここを選んだ筋は通るも、疑問は解消されない。
「いや、具体的にどう使うか、聞いてるんすけど」
「今は考えなくていい。ここで旗を見つけることだけに集中しろ」
望んだ答えは返ってこず、少しモヤッとしたまま、発電所に歩みを進めた。