第51話 バトルフラッグ①
ザ・ベネチアンマカオ地下19階。紛争の間。
新たな地に足を踏み入れたのは、バニーガール。
「……」
目の前に広がっているのは、工業地帯だった。
無数にある煙突からは、白い煙が立ち上っている。
コンテナやパイプが連なり、絶えず機械音が鳴り響く。
厳密には製鉄所、発電所、化学工場などが建ち並んでいる。
時間帯は夜。至るところに設置される照明器具が辺りを照らす。
「この感じはアレっすね……」
頭に浮かぶのは、場違いな光景が広がる要因。
不可思議な現象を可能とする、唯一無二の手段。
「十中八九、独創世界だろうよ」
それを先回りして答えたのは、マクシスだった。
両腕を組み、達観した様子で、辺りを確認している。
他に人影はなく、作業員やNPCの姿もぱっと見はいない。
「強制的な二人一組。それも、任務達成型ってところっすか」
生じた答えに、仮説を付け加える。
明らかに運営側が意図した配置に思えた。
「あり得るな。……恐らく、すぐに兄から正式な説明が入るはずだ」
マクシスは仮説に仮説を付け加える。
さすがにここまでくれば、流れは大体分かる。
認識を共有し、待とうとするも、気になる言葉があった。
「ここの担当悪魔、そっちの兄貴なんすか?」
「あぁ。名はアサド・クズネツォフ。使役権を得た場合の第一候補だ」
ただの雑談のように思えるも、明確な意図を感じる。
わざと気になるワードを会話に混ぜ込んで、反応させた。
――ようは、牽制。
協力者になる可能性が高いものの、同時に競争者でもある。
仮に達成報酬が『二人用特急権』で、担当が被れば、必ず揉める。
今のうちに腹を割っておいた方が、得策だと考えているのかもしれない。
「安心していいっすよ。狙いは、被ってないっす」
「安心した。それなら、心置きなく協力関係を築けそうだ」
そこで話はひと段落。
後は担当の説明を待つだけ。
「……にしても、遅いっすねぇ」
ただ、なかなか連絡が入ってこない。
説明を待たずに、行動しようかと考えた頃。
『悪い、順番待ちが多くてな。早速だが、ルール説明をさせてもらう』
すぐさま担当悪魔のアサドは、どこからともなく声を響かせる。
恐らく、他の参加者に説明をし、時間を取られたと考えていいはず。
裏を返せば、ここにいない面子は同じ世界で競い合う可能性が高かった。
「出来るだけ丁寧に頼むっすよ」
ある程度、現状を察し、話を振る。
問題は中身。それで、どちらにも転がる。
『ゲーム名は『バトルフラッグ』。内容は至ってシンプルだ。マップ内に隠された旗を見つけ、脱出地点を探し、持ち帰る。隠された旗は三枚。一枚で二人まで特急権をが使用可能になる。……ただし、意思の力は封じられ、武器やアイテムは現地調達。NPCや敵対者には、落ちている武器経由でしかダメージを与えられない。個人に与えられたライフは2つ。攻撃がヒットすれば、手の甲に表示される♡が消失。二つ消えれば、ゲームオーバーだ。ちなみに、質疑応答は受け付けねぇ。後は自分たちで探索して、上手いこと攻略してくれや』
一方的につらつらと語られ、音沙汰がなくなる。
不親切なように思えるも、必要最低限の説明はあった。
「望む」
「ところだな」
二人の視線は前を向き、未知の工場地帯へと足を踏み入れた。