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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第5話 冥戯黙示録 目次①

挿絵(By みてみん)




 裏社会の重鎮たちがひしめく、エントランスホール。


 スポットライトが当てられた中央には、悪魔が現れた。


 グレーっぽい軍服と制帽を着た、黒髪おかっぱ頭の幼女。


 黒角、黒羽根、黒尻尾という特徴がある、正真正銘の悪魔。


(待て待て待て……。こんなのって、アリか……っ!)


 見覚えのある相手を前にして、ジェノは目を見開く。


 幼女の姿をした悪魔。その正体には心当たりがあった。


 99%は合っている自信がある。残り1%は人違いの可能性。


「――静粛に! これより、冥戯黙示録のルールを説明するぞい!!」


 その最後のピースが本人の口により、埋められる。


 見覚えのある容姿。聞き覚えのある声。特徴のある口調。


(リア・ヒトラー。ドイツの魔術師が悪魔に堕ちた……?)


 ジェノは確信をもって、悪魔の正体を悟る。


 ドイツでは、魔術結社に属する魔術師と戦った。


 リアは結社の幹部の一人。四首領と呼ばれた魔術師。


 偶然にしては出来過ぎた再会。運命じみた因縁を感じる。


「勝敗条件は至ってシンプル。ここ地下108階から、地上1階にたどり着いた先着5名を勝者とし、吾輩たち第一級悪魔の使役権を与えることとする。先着順で悪魔を選定でき、五番目の勝者は最後に残った者と契約を結ぶことになる。契約内容は人間側が自由に指定するがよい。……ただし、万が一、悪魔側か人間側の数が欠け、どちらか五名未満になった場合、先着人数は減った分だけ繰り下げとなるぞい」


 リアと思わしき悪魔が語るのは、これから始まる勝負の説明。


 人間側に都合のいい要素が多く、デメリットがないように感じる。


 裏を返すなら、主催者の悪魔側のメリットが少なすぎるように思えた。


(この勝負、何か裏があるな……)


 これでも修羅場は何度も潜ってきた。


 その経験から、血生臭い匂いを感じ取る。


 神格化による『感性の鈍化』は対象外の要素。


 感情の動きには疎くても、理屈の違和感は分かる。


 むしろ、余計な雑念が入らない分、冷静に思考できた。


「さて、次は本題のルール説明になるが――」


「待たんかい。他のお偉いさんの姿が見えんが、どうなっとる」


 リアが説明を続けようとしたところ、関西弁の男が口を挟む。


 赤スーツに、タイのない黒シャツを着て、サングラスをかける。


 額には二本の黒角、黒髪のオールバックで、眉毛が全剃りの中年。


 羽根と尻尾がないことから考えると、鬼道組の鬼だな。役職は不明。


「静粛に……と言ったつもりだったが、聞こえんかったかな?」


「賞品の数が足りんと、後から言われちゃあ困るんよ。意味は分かるか?」


 互いに話は平行線。視線はぶつかり合い、一触即発の空気。


 目に見えた悪魔は一人。数が少なければ、割を食うのは人間側。


 五位までメダルをもらえるはずが、優勝者のメダルしかない可能性。


 他の四人の悪魔が見えない以上、彼の言うことには十分な正当性がある。


 ――ただ。


「………………」


 ジェノは先を読み、静かに体を動かした。


 後から生じる問題は、その時に考えればいい。


「ちょ、ジェノさん!?」


 動きに気付いたメリッサは、手を伸ばすも届かない。


 他に止める者はおらず、体は舞台中央へ向かっていった。


「忠告はした。ヤクザと同じく、悪魔も舐められたら終わりなのでな――」


 リアは虚空に右手を掲げ、冷たく言い放つ。


 身体の周辺には薄っすら赤いセンスを纏っていた。


「ぐっ、あっ……っ!? い、息が――」


 すると、ヤクザの男は首元を抑え、突然苦しんでいる。


 能力の行使。詳細は分からないけど、確実に殺すつもりだ。


「やめろぉぉぉぉっっ!!!!!」


 予想通りの展開を前に、ジェノは右拳を振るう。


 放たれた拳は、一直線に悪魔の顔面へと迫っていく。


「――――」


 直後、パシンと乾いた音が鳴り響く。


 拳は惜しくも届かず、受け止められていた。


(……え?)


 顔を見上げて、ジェノは言葉を失う。


 目の前に現れたのは、四人の悪魔だった。


 その一人が右拳を扇子で止め、妨害している。


 花魁風の銀髪女性。灰色の着物に袖を通した悪魔。


 後ろ髪は丸く結われて、金のかんざしで彩られている。


「お久しゅう。大阪での『みやびフェス』振りやね。……ジェノはん」

 

 拳を止めた張本人が、こちらの名前を口にする。


 同窓会でも開くつもりか、この人も見覚えがあった。


「鬼道組元組長……鬼道(かえで)……っ!!!」


 ジェノは100%の確信をもって、名前を口にする。


 帝国ヤクザの目的が、間接的に理解できた瞬間だった。

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