第49話 天眼視心
天眼視心。蓮麗が有している感覚系特化の能力。
目視した対象が、現在、最も隠したい秘密を一つ暴く。
心の隅々まで知ることは不可能。範囲を絞って可能となった。
同じ対象には連続で使用できず、24時間のクールタイムが発生する。
効果的な情報をもらえない場合もあり、タイミングにはセンスが問われる。
(能力の概要はバレただろうネ。動くとしたら、あの男……)
蓮麗の視線の先には、黒いロングコートを着た無精ひげの男。
左脚の義足には微量のセンスを集中させ、臨戦態勢になっている。
(抱える秘密がデカいほど、我を真っ先に狙う。見定めさせてもらうヨ)
喧嘩を売った上でルーカスを待ち構える。
一人用特急権の情報提示は、牽制に過ぎない。
問題は、引っ張り甲斐のある秘密を持っているか。
反応次第で、冥戯黙示録後の立ち回りが大きく変わる。
「…………」
しかし、ルーカスは臨戦態勢を解除。
コートに手を入れ、取り出したのは紙切れ。
その端と端を手で掴み、思わぬ行動に打って出た。
「やっぱ、やめとくわ。こいつが火種で、更に死人が出るならいらねぇよ」
ビリビリという音が鳴り、紙は八つ裂きにされている。
一人用特急権の失効。争う理由がなくなることを意味する。
(当てが外れたカ? 何かデカい秘密を握ってる気がしたが……)
期待外れで、拍子抜けの展開と言えた。
かき乱そうとした空気が元に戻ろうとしている。
(まぁいい。主導権を握っているのは、コチラ。いくらでも手はある)
気を取り直して、蓮麗は次なる一手を考える。
天眼視心の能力が過大評価される前提の、最善行動。
ある程度、考えがまとまったところで、背後から音が鳴った。
(ちっ、ここで乱入者か。間が悪いネ。……ただ、文句を言っても仕方ないカ)
練り込まれた作戦より、現場の空気と流れが重要なのを知っている。
蓮麗はすぐさま振り向いて、エレベーターから現れた人物を確認した。
「「…………」」
見えたのは褐色肌の少年と赤髪のピエロ。
警戒するなら、普通の場合だったらピエロの方。
雰囲気や出で立ちから、達人の匂いを醸し出している。
ただ、蓮麗はピエロには一瞥もくれず、少年の方を見ていた。
(こいつは……次の火種になり得りそうネ)
根拠などはなく、ディーラーとしての人生経験による山張り。
ある意味、直感とも言える自身の感覚に従い、己が能力を発動した。