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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第46話 敗北の真相②

挿絵(By みてみん)





 行われるのは、タイムズルーレット。


 蓮妃とルーカスが繰り広げる最後の勝負。


 卓にはリボルバーが置かれ、弾丸は装填済み。


 ――――――――――――――――――――


 再装填完了。


 蓮妃:♡♡♥。先攻。


 ルーカス:♡♡♡。後攻。 


 ターン2。実弾二発。空砲二発。遡行弾二発。


 ――――――――――――――――――――


 卓上の液晶には、ゲームの進行具合が表記される。


 遡行弾の価格は、本勝負開始時点での所持チップ50%。


 二発分を購入した蓮妃は、チップ100%を消費している状態。


 『冥戯黙示録』では、チップが0枚になれば、命は取り立てられる。


 ただ、本勝負のルールとして、命の取り立てはターン終了後に行われる。


 ――ゲームの仕様上、次のターンは存在しなかった。


「未来が駄目なら過去……。頼みの綱は『遡行弾』ってか。哀れだねぇ。特殊弾を購入したターン内に勝利できれば、チップが払い戻されるが、実弾は二発。俺のライフが削られることは100%あり得ねぇ。……つまり、この時間軸での勝負は諦めたってわけだ。負け犬の思考だな。ワンワン吠えてんのはそっちじゃねぇか?」


 ルーカスは、上から目線で現状を整理する。


 彼はチップを80%消費し、爾後弾で未来を見た。


 本ターンでルーカスが勝利し、蓮妃が敗北する光景。


 勝利をゴールと定めたのなら、圧倒的優位は揺るがない。


「……勝つことだけが正しいとは限らナイよ。軸は常に複数アルね」


 蓮妃はリボルバーの撃鉄を起こし、言った。


 やけになったわけでもなく、諦めたわけでもない。


 彼女なりのゴールに目を向けて、突き進もうとしていた。


「俺には分からねぇ思考回路だな。……ま、さっさと始めてくれや」


 互いに考えが相容れることなく、会話は終了。


 次の行動は、先行の蓮妃に託されることになった。


 選べるのは、相手を撃つか、自分を撃つか。この二択。


 その結果により、攻守が継続するか、交替するかが決まる。


 ――対応する結果は四つ。


 ・相手に撃つ。実弾=攻め継続。


 ・相手に撃つ。空砲=攻め交替。


 ・自分に撃つ。実弾=攻め交替。

 

 ・自分に撃つ。空砲=攻め継続。


 勝負が有利になる結果が出れば、攻め継続。


 勝負が不利になる結果が出れば、交替する仕様。


 ただし、特殊弾が選出された場合は、事情が異なる。


「言われなくても、やってやるね――」


 蓮妃は銃口をこめかみに当て、引き金を引く。


 ダンと発砲音が鳴り響き、灰色の弾丸が発射される。


 ――遡行弾。


 命中した相手は、1ターン前に遡ることができる。


 減った分のライフは回復し、チップは減算されたまま戻る。


 蓮妃の思惑通りに事が進み、有利にゲームが進んだように思われた。


 ――しかし。


 ――――――――――――――――――――


 自爆により、攻守交替。


 遡行弾は過去に持ち越し不可のため、


 二発目が使われたと同時に効果が適用されます。


 ルーカス:♡♡♡。後攻。 


 蓮妃:♡♡♥。先攻。


 ターン2。実弾二発。空砲二発。遡行弾一発。


 ――――――――――――――――――――


 特殊弾は、実弾扱いと判定される。


 自身に有利となる効果でも、攻守は替わる。

 

 さらに、説明のない仕様が蓮妃を不利に追い込んだ。


「考えが甘かったな。てめぇの番は、もう二度と回ってこねぇよ」


 未来を知るルーカスにとって、この結果は織り込み済み。


 弾倉の配置も把握しており、蓮妃が敗北する未来は確定的。


 生殺与奪の権は彼に握られ、死に方も選べない状態にあった。


「……ふっ。ふふっ。はははっ。そうか。そういう仕様だったか」


 そんな絶望的な状況の中、彼女は笑っていた。


 何を思い、何を考えて、どうして笑うに至ったのか。


 彼女にしか理解できないからこそ、他人の目にはこう映る。


「気色悪ぃな。気でも狂ったのか?」


 自分の常識から外れた存在を、好意的に思う人は少ない。


 批判し、相手を理解しようとせず、自分が正しいと主張する。


 切り捨て型の思考。自分が信じたいもの以外を見ようともしない。


 ただ、切り捨てられる人間の多くは、強固な『自分軸』を持っている。


「狂気こそが大義を成す。狂ってなければ、天下統一しようなんて考えナイね」


 普通や常識に囚われれば、発想力や行動力も弱まる。


 奇抜な考えが浮かんでも、理性が拒絶して、実行しない。


 ただ、時代に変化をもたらす人間は大抵、常識の外側にいる。


 それが世界の新しい常識になった時、初めて人は存在を認知する。


「さすがは始皇女帝様ってか。重みが違うねぇ。……ただ、あんたは時代遅れだ」


 ルーカスはリボルバーを握り、撃鉄を起こし、銃口を向けた。


 どれだけの議論を重ねようと、逃れようのない現実が押し寄せる。

 

 肩書きが通用しない、現代の始皇女帝が取れる行動は、限られていた。


「…………」


 蓮妃は真剣な表情を作り、その場で跪いて、首を垂れる。


 最上級の謝罪表現であり、位あるものにとって最上級の屈辱。


 現代で過ごすほど肥大化しつつあった、誇りと矜持を捨てていた。


「おいおい……。何かするとは思ったが、そんなもんで手心は加えねぇぞ」


 ただ、ルーカスにとっては、なんの価値もない。


 命を奪い合う勝負な以上、耳を貸す理由がなかった。


 勝ちを譲ってしまえば、自身の命を差し出すことになる。


 ただ、蓮妃としての狙いは、過去の時代に戻ることにあった。


 追い詰められた状況の中でも、願いが実現する可能性は残される。


 ――二発目の遡行弾。


 運が良ければ、元の時代に遡ることができる。


 跪いて、嘆願するなら、遡行弾の交渉が必要不可欠。


 未来を知るルーカスなら、意図して撃つことが可能だった。


 ――交渉における争点は勝敗と時間軸。


 遡行弾を撃った上で、現在のルーカスが勝つかどうか。


 過去に遡行することで、未来が変わるなら、リスクになる。


 一方で、現在と過去が別の時間軸として扱われるなら問題ない。


 彼女の目的を叶えるための議論なら、それらの説明する他なかった。


「お願いするよ。死に方は諦めるから、メリッサに謝る機会を与えてくれナイか」


 ただ、その前提を裏切り、蓮妃は狂った行動に出る。


 それが、予期された未来だったのか、想定外だったのか。


 爾後弾で1ターン先の未来を見た、ルーカスのみが知っている。

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