第43話 タイムズルーレット②
明かされたのは、単純かつ、深みのあるルールだった。
ターン制のロシアンルーレットでライフを削った方が勝ち。
卓には一丁のリボルバー。卓上の液晶にはデータが表示される。
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ルーカス:♡♡♡。先行。
蓮妃:♡♡♡。後攻。
ターン1。実弾一発。空砲五発。
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弾薬は自動で装填され、シャッフル済み。
初回のチュートリアルらしい配分ってやつだ。
ルールは理解したが、試してぇことが山ほどある。
「…………」
ルーカスは、ブラックカードを黒のコートから取り出す。
それを卓上に当てることで表示される、追加項目を確認した。
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【特殊弾一覧】
断刻弾。
開始時点のチップ20%を消費し、追加装弾可能。
命中した相手の時を止め、一回分の行動を不能にする。
停止時間に制限はなく、順番が回ってくるまで能力は継続する。
遡行弾。
開始時点のチップ50%を消費し、追加装弾可能。
命中した相手は1ターン前の過去に戻ることができる。
その間に減ったライフは回復するが、チップは減算される。
爾後弾。
開始時点のチップ80%を消費し、追加装弾可能。
命中した相手は1ターン後の未来を知ることができる。
発動時点の未来であり、変数が混じれば、結果は変動する。
※チップが100%消費された場合、ターン終了後に敗北が確定する。
ただし、追加装弾されたターン内に勝利すれば、払戻。敗北は無効となる。
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あるのは、現在、過去、未来に対応する弾丸。
得られるリターンは言うまでもなく、馬鹿でかい。
リスクはチップが減ることと、自爆しちまう可能性だ。
チップは割合消費。平等に特殊弾の権利が与えられていた。
「……さすがは、最後のゲームってぇところか。よく出来てやがる」
作り込まれたルールに、ポロリと本音が漏れた。
チップ数で差が出来ると思ったが、そうでもねぇ。
成金が有利にならねぇゲーム性に、好印象を持てた。
「良ゲーでもクソゲーでも、やることは変わらナイね。早く番を回すよ」
後攻の蓮妃は、変わらぬトーンで行動を促す。
焦る気持ちは分かる。勝てば、『悪魔の使役権』獲得だ。
それも、早いモン勝ち。五人の中で、譲れねぇ奴がいるんだろう。
「まぁ、じっくりやらせてくれや。これが余生になるかもしれねぇんだからな」
ここまで来て、焦っても意味がねぇ。
じっくり内容を吟味して、戦略を考える。
(特殊弾は早めに試してぇが、問題は何を選ぶかだな)
現在<過去<未来の順に、リスクとリターンがでかい。
守りに入るなら、断刻弾を入れ込んで、様子見はアリだろう。
間違って被弾しても一回休み程度だったら、いくらでも挽回できる。
(安定か、不安定か……。ここまで来たらコレしかねぇよな)
ルーカスは吟味した上で、特殊弾を選択する。
『毎度あり。特殊弾として、爾後弾が選ばれた。再度装填し、シャッフルだ』
聞こえてきたのは、ガラの悪そうな担当悪魔の声。
卓に置かれたリボルバーが浮き上がって、弾丸を排莢。
空中には白色の弾丸が現れ、通常弾と共に装填され、回転。
――実弾一発。爾後弾一発。空砲四発。
卓上の液晶には、更新された情報が表示されている。
チップは残り20%。リスク承知で、リターンを取る選択。
自分の額には銃口を突き付け、撃鉄を起こし、言ってやった。
「……待たせたな。初っ端から、クライマックスと行かせてもらうぜ!!」
引き金を引き、ドデカイ発砲音が鳴り響く。
六分の一の確率で選出されたのは、白色の弾丸。
1ターン後の未来を知れる特殊弾が、眉間を貫いた。
◇◇◇
頭には、鮮明な映像が流れてきやがった。
印象的だったのは涙を流しているメリッサの姿。
残念と言うべきなのか、喜ぶべきなのかは分からねぇ。
「……戻ったみたいね。未来で何を見た」
リボルバーを手渡してくるのは蓮妃だった。
気付けば攻守は交替して、空砲だったみてぇだ。
関係性はねぇが、ぐっと胸が苦しくなってきやがる。
温情を与えてやりたくもなるが、やることは変わらねぇ。
「――――」
ルーカスは心を鬼にして、自分に引き金を引く。
空砲。攻め継続。空砲。攻め継続。空砲。攻め継続。
――残っているのは一発分。
決まり切った結果を示すため、相手に銃口を向け、言ってやった。
「てめぇの未来は死だ」
ダンと耳をつんざく発砲音を奏で、冷たい弾丸は蓮妃の額を貫いた。
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ターン1終了。結果。
ルーカス:♡♡♡。
蓮妃:♡♡♥。
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