第42話 タイムズルーレット①
ザ・ベネチアンマカオ地下20階。撃鉄の間。
たどり着いた先には、大量の卓が配置されている。
原点回帰。悪魔チンチロと似たようなテイストに思えた。
異なる点と言えば――。
「今度は拳銃。ロシアンルーレットってところっすか……」
足を踏み入れたメリッサは、感想を漏らす。
卓に置かれているものは総じて、回転式拳銃。
ルールを聞く前から、ある程度の予想ができた。
「……だろうな。ただ間違いなく、普通のルールじゃない」
表情を引き締め、辺りを観察するのは閻衆。
関係性は不透明。敵でもなければ、味方でもない。
これから明かされるルール次第で、どちらにでも転がる。
「「――――っ!!?」」
そこで突如、響いたのは銃声。
否応なく互いの視線は、卓に向く。
行われていたのは、先行到達者の勝負。
ルーカスが蓮妃に銃を向け、発砲していた。
「……わりぃな。命を賭ける以上、手は抜けねぇんだわ」
颯爽と立ち上がり、電光掲示板の方へと向かっていく。
卓に残っているのは、見覚えのある赤いチャイナ服だけだった。
「は…………?」
起きた情報が、頭で処理し切れない。
理解できるはずなのに、理解することを拒んだ。
「起こるべくして起きた結果だな。逆に今までが、ぬるま湯過ぎた」
それとは対照的に、淡々と閻衆は結果を受け止める。
見ず知らずの人間だからか、身内でも同じ反応をするのか。
知らない。分からない。誰がどう考えようと、結果は変わらない。
「蓮妃が、死んだ……?」
メリッサは受け止めたくない現実を口にすると、目の前は滲んで見えた。
◇◇◇
十数分前。撃鉄の間で卓についたのは、二人。
「ルール説明を」
「お願いするね」
ルーカスと蓮妃、互いの意見は一致し、説明を求める。
相手は最後の悪魔。この階層を含んだ、第五区画の責任者。
『ゲーム名はタイムズルーレット。ルールのベースはロシアンルーレットに近い。装弾数六発のリボルバーにランダムな数の弾丸が装填され、シャッフルし、互いに発砲し合う。互いに設定されたライフは三つ。六発打ち切ったらワンセットのターン制。撃つ対象は自分か相手かを自由に選べ、自分への空砲か、相手への実包なら、ターン継続。逆に、自分への実包か、相手への空砲で交代。……と基本設定はこんなもんだが、重要なのは所有するチップを消費して、時間に関連する特殊効果付きの銃弾をランダムに装填できるってところだ。能力の詳細はテーブルにカードをかざせば、確認できる。ただし、ここはオールイン専用台で、勝てば一人用特急権、負ければ命は取り立てられる。これまでの説明に文句はねぇか?』
アサド・クズネツォフは饒舌にルールを語る。
「概ね理解したよ。後は体で覚えるだけね」
「俺も文句なしだ。さっさと始めてくれや」
説明を聞いた上で、互いに同意し、話は進行する。
『オーライ。勝つか負けるかは時と運と実力次第。タイムズルーレット開始だ!』
その合図と共に、空中から現れた弾丸が装填され、シャッフル。
過去と現在と未来が交錯する、命賭けの博打が始まった瞬間だった。