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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第41話 向かう先

挿絵(By みてみん)




 自由の街(アガルタ)。崩れたエンパイアステートビル一階。


 そこには崩落してもなお、残っている設備があった。


 壊れてない時点で、能力者による何かしらの庇護が確定。


 視覚的には通じていないように見えても、上階へ進めるはず。


「言っておくが、ここから先は敵同士だ。……いいな?」

 

 特急権用エレベーター前で、閻衆は語る。


 警察としてじゃなく、ヤクザの頭としての発言。

 

 すでに警官服から着替え、赤スーツに袖を通している。


「はいはい、分かってるっすよ。……狙いは、愛しの姉御っすか」


 メリッサは黒のバニースーツを着て、会話に応じる。


 ズタボロの警官服を捨て、影と糸で編んだ勝負用の衣装。


 適当に茶化しながらも、上階を目指す姿勢だけは本気だった。


「……まぁ、そんなところだな。そっちの狙いは?」


 これが味方として交わす、最後の会話。


 なんとなくそんな気がして、ボタンを押せない。


 ドアが開けば関係が終わることを、互いに理解していた。


「秘密っす……。狙いが被ってないのだけは確かっすよ」


 ただ、メリッサは明るく振る舞い、ボタンを押した。


 速さを競う勝負である以上、後ろを振り向く暇はなかった。


 ◇◇◇


 第五区画へ向かう、特急権用エレベーター内。


 そこに乗っているのは、特急権の最大数である五名。


「……手下は帰らせて良かったのか?」


 その内の一人である蓮妃は尋ねる。


「次が『冥戯黙示録』の最後の区画。これまで稼がせた分を、一気に絞り取るような賭場になると予想する。そうなれば、身内同士での殺し合いに発展する可能性が高いのでな。組織の頭として命を預かっとる以上、下手に巻き込むわけにはいかんのよ。……それに、配下が悪魔の使役権を得れば、必ず揉めるぞ。それを理解しているからこそ、マクシス殿は早々に軍を撤退させたのではないのかな?」


 元の身体に戻ったシェンは、腰に手を当て答えた。


 その視線の先には、金の義手を確かめるマクシスの姿。


「……おっしゃる通りだ、ご老公。ゲームの性質上、集団の力で突破できるのは序中盤だけと読んだ。ここからはさらに、個の力が試されるだろうよ。大物の命を刈り取りたい、あちらさんの思惑通りの展開なのが癪に障るがな」


 堅い相槌を挟みつつ、自分の考えを主張する。


 連邦準備銀行の騒動では、体を入れ替えられた同士。


 ただ、二人の間に遺恨はなく、むしろ関係は良好に見えた。


「思惑通りと言やぁ、どこまでがあいつの計画なんだろうな」

 

 同席しているルーカスは、話を転がす。


 話題に上がるのは、この状況を作った人物。


 不思議と場は静まり返って、誰も口を挟まない。


「未だ底が知れないな……。ジェノ・アンダーソン……」

 

 そこでベクターがぽつりと語ると、エレベーターは第五区画に到達した。


 ◇◇◇


「お勤めご苦労様です、バグジーさん」


 警察署前で待ち受けるジェノは、明るく声をかける。


 署の入り口から現れたのは、バーテン服を着た赤髪ピエロ。


「出迎えありがと。期待以上のお手柄だったわね」


 柔和な笑みを浮かべるバグジーは、少年を褒め称える。


 保釈金のチップ五千枚。それを払っても余りある成果だった。


「皆さんの聞き分けが良かっただけです。たまたまですよ」


 ジェノは図に乗ることはなく、謙遜する。


 少年とは思えない反応。大人顔負けの態度だった。


 十代前半なら、もっと調子に乗っても良さそうなんだけどね。


「不思議ね。白き神に精神汚染されて、益のない人助けを毛嫌いしてると言いながら、人を無差別に助けたりする。損得が絡んでいたからなのか、根っからの人の良さが残っていたのか。今のアナタは善人か、悪人。どっちなのかしら?」

 

 バグジーが問うのは、本質的な質問。


 ジェノの精神がどこまで残っているのか。


「自分でもよく分かりません。でも、次の区画で分かるような気がします」


 その答えは、待ち受ける最後の区画へと持ち越された。


 ◇◇◇


 自由の街(アガルタ)。タイムズスクエア。電光掲示板。


 そこは、チップによる売買が可能な場所だった。


 背後ではNPCが闊歩する中、操作しているのは三人。


「特急権ゲット。これで、上へ行けるね」


 声を発したのは、陰気な少年。


 掲示板からは、レシートが出てくる。


 高額の医療請求で稼いだ成果の賜物だった。


「ここまで身を潜めたが、次で目に物みせてやるヨ」


「…………最後まで付き合ってやるが、ほどほどにな」


 意気込むのは、中国系の女とアフリカ系の男。


 医療請求で稼ぐことを勧めてきた、発案者だった。

 

「進むのはいいとして、あと二人ほど枠が余るね」


 その様子を横目で見つつ、気になったことを口にする。


 特急権は五名まで有効。二人までは上階まで便宜を図れた。


「……失礼する。その枠とやらぁに、入り込ませてはいただけないかな?」


 二人が返事するより早く、声をかけてきたのは見知らぬ人。


 杖を持った中年の男性が、紳士っぽく声をかけ、話は広がった。

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