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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第40話 自由の街⑭

挿絵(By みてみん)




 素体が持つ力だけで異能が扱える人類。


 『特異体』には、複数のタイプが存在する。


 遺伝子の突然変異により生じる、自然発生型。


 遺伝子の人為的操作により生じる、人工発生型。


 外的要因により遺伝子が作り替わる、融合発生型。


 このいずれかに分類され、帝国で問題なのは三つ目。


 融合発生型の『特異体』が水面下で広がり続けている。


 ――千葉薊も漏れなく該当していた。


 該当者は髪の色素が抜け、白髪になる傾向が多い。


 主な原因は邪遺物イヴィル。死後の意思が、人を化け物に変える。


(……ごめんなさい、メリッサさん。わたしのためであり、国民のためなんです)


 邪遺物イヴィル『羅刹』を納刀し、心の内で謝罪する。


 Vtuberの皮を被ることで許された、人権と肩書き。


 薊は業と責任を背負い、風に揺られて、夜闇に消えた。


 ◇◇◇


 目が覚めたら、バグジーが捕まっていた。


 手錠をかけられ、閻衆に大人しく補導されている。


 道路は封鎖されて、警察たちが黄色の規制線を張っていた。


「うち……今まで何をやって……」


 前後の記憶が曖昧で、頭がぼんやりする。


 場所は道路脇。そこで気絶していたみたいだった。


「起きたか、新入り。銀行の件は後回しだ。こいつからチップを毟り取る」


 こちらに気付いた閻衆は、端的に経緯を伝えた。


 閻衆がバグジーを倒した。それで、納得がいく展開。


 だけど、どうも引っかかる。何か抜け落ちたような感覚。


「あぁ……今、行くっす」


 頭を振るい、違和感を片隅に追いやり、メリッサは職務に従事した。


 ◇◇◇


 自由の街(アガルタ)。ニューヨーク市警察署。取調室。


「保釈金はチップ五千枚。期限は24時間以内。払えないなら、敗走確定だ」


 閻衆は早速、メタ的に取引を持ち掛ける。


 ここの裁判が、どこまで機能してるかは不明。


 現実世界と同じ程度か、張りぼてのようなものか。

 

 どちらにしても時間がかかって、上位狙いだと致命的。


 問題は、バグジーが何に重きを置いているのかが不明な点。


(悪魔の使役権か、ジルダの所在か。どっちを優先してるか分かるかもっすね)


 取引に食い下がるなら、前者。すんなりと諦めるなら、後者。


 と考えることもできる。面倒なのは、一括でペイできてしまう場合。


「あら、それなら楽勝ね。もうすぐ、払いに来ると思うわ」


 バグジーは想定する中で最悪の答えを提示し、思惑は分からないままになった。


 ◇◇◇


 連邦準備銀行地下。巨大金庫前。


 狭い通路に倒れ込んでいるのは、四名。


 ルーカス、ベクター、蓮妃、マクシスだった。 


「一人につき五千枚なので……報酬は二万枚でお願いしますね」


 ジェノは冷めた目で見つめ、淡々と次を見据えていた。


 ◇◇◇


 連邦準備銀行。三階。セキュリティールーム。


 そこでは、各階にある防犯カメラの映像が映っていた。


 複数ある画面の一つには、地下の騒動の一部始終が再生される。


「…………」


 NPCの守衛と職員を倒し、広島はジェノを見定める。


 そこでは、鎧袖一触の勢いで侵入者を倒す姿が見られた。


 敵はモブでもNPCでもなく、何かしらの達人クラスじゃった。


「こがいな短期間でここまで……」


 本来の目的を忘れて、弟子の活躍に見入る。


 王位継承戦で手合わせしてから、たった数日。


 まるで別人のような、飛躍的成長を遂げとった。


「いや、さすがにあり得ん……。これは……」


 だからこそ、違和感に気付いた。


 巻き戻し、再生し、口元の動きを見る。


 敵が倒れる前に共通して、耳元で喋っとった。


「八百長じゃ……」


 広島は一人結果を確信し、善悪の判断は先送りになった。


 ◇◇◇


 連邦準備銀行前。出入口。


 放り出されるのは、五名の侵入者。


 それを待ちに待っていたハイエナ集団がいた。


「……もしもし。聞こえてる? 聞こえてないなら勝手に治しちゃうよ?」


 声をかけたのは、陰気な少年。


 背後には、黒服の男女が立っている。


 その目的は、治した後。高額の医療費請求。


「悪いとこ全部治してくれると助かるね。チップは一人につき千枚払うよ」


 パチリと目を開いた蓮妃は、ハイエナに対応する。


「物分かりがいいね。それなら、話が早い――」


 少年が黒のパーカーから取り出したのは、五本の牛乳瓶。


 中身は透明の液体。少なくとも、牛乳ではない何かが入っている。


「能力は『天使の接吻(エンジェルキッス)』。僕の唾液には治癒力があるんだ」


 意気揚々と内容を語り、自由の街(アガルタ)での騒動は幕を閉じた。

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