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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第39話 戦う理由

挿絵(By みてみん)




 数日前。東京都。杉並区。千葉家道場。


 丹念に磨かれた木製の床が広がる、練習場。


 厳粛な空気が漂う中、立ち合っているのは二人。


「憲法改正の焦点は何か分かるかぁ、あざみ

 

 黒の袴を着て、木刀を両手に構え、問うのは千葉一鉄。


 仕掛けようとする素振りはなく、待ちの姿勢を保っていた。


「……ぎ、議員の三分の二以上の賛成を得ること」


 木刀を振るい、質問に答えるのは、短い白髪の女性、千葉薊。


 白の袴を着て、弱気な口振りとは異なる、堂々とした太刀筋を見せる。


「甘い! 憲法改正案は、議員の賛同だけでは通らんわ!!」


 バチンという痛々しい音と共に、木刀が転がる。


 迫る太刀筋に完璧に対応した上で、一鉄は説き伏せた。


 元総理大臣と総棟梁。その肩書きの重さが言動に乗っていた。


「…………」


 肩をビクンと震わせ、視線を落とし、薊は考える。


 足りないもの。その先にあるもの。避けては通れないもの。


「聞かせてみろ、憲法改正には何が必要だ。総理大臣――伊勢神宮」


 発破をかけられ、追い込まれる。


 間違えれば、たぶん体罰が待っている。


 ちゃんとした答えが出てくるまで、叩かれる。


 教育として絶対間違ってるけど、いい刺激になった。


「み、みかどが納得できる理由を用意すること」


 薊は俯いた顔を上げ、最適解を導き出す。


 大日本帝国は、厳密に言えば民主主義じゃない。


 憲法改正レベルの政策は、国の主の承認が必要だった。 


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。宮殿内、松の間。


 道場よりピカピカに磨かれた板張りの部屋。


 そこで行われるのは、内閣総理大臣任命式だった。


 本来なら、下院と上院の両議長と前総理大臣が同席する。


 ――ただ、千葉薊はVtuber名義による議員。


 顔バレ厳禁というV特有の事情を配慮して、同席者はなし。


 そのため、前代未聞の『帝とのタイマンコラボ』が実現していた。


「――重任ご苦労に思います」


 柔らかく、落ち着く声音から渡されたのは一枚の紙。


 辞令書を手渡されて、総理大臣として正式に受理される。


 ただ、目の前には簾が引かれ、顔を直接見ることはできない。


 見えるのは、手入れが整った綺麗な両手と、白い振袖だけだった。


「あ、あの……憲法9条改正について、お伺いしたいことが、ございます」


 黒服姿の薊は、緊張した面持ちで意見を申し立てる。


 任命式も大事だったけど、本命はどちらかと言えばこっち。


「拝聴いたします」


 想像通りの堅苦しい反応に、ドキンと心臓が脈打つ。


 粗相できないプレッシャーから、頭がパンクしそうになった。


「と、特定外来種に該当する『鬼』、『悪魔』、『特異体』の例外化を認めてもらう場合、どのような手順が必要でしょうか」


 それでも薊は、自身の役目を全うする。


 実現できなければ、総理になった意味がない。


「近々、マカオにて、くだんの特定外来種が集まる賭場『冥戯黙示録』が実施されます。危険とは存じますが、それぞれの生態と脅威と思われる一面を、この眼鏡で見定めてきてくださいませ。その如何によって、判断を下します」


 そこで手渡されたのは、赤い眼鏡だった。


 恐らく、映像を保存するカメラが内蔵されたもの。


 やるべきことの解像度と、現実味がぐっと増すのを感じる。


「…………つ、謹んで、承ります」


 慣れない敬語を使い、眼鏡を受け取って、新たな旅路が始まった。


 ◇◇◇


 道路には、メリッサの首が転がっている。


 相手はかつての仲間であり、『特異体』の代表格。


 次第に首が体に引き寄せられ、骨と血管が繋がっていく。


「…………」


 その一部始終を薊は、赤い眼鏡を通して見ていた。


 それは、『特異体』の生態と脅威の確認を意味していた。

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