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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第37話 自由の街⑫

挿絵(By みてみん)




 両手に握り込むのは、二刀のククリ。


 バグジー・シーゲルは、今日も心を鬼にする。


「――アナタたちは苦痛でのたうちまわった挙句、降参する」


 啖呵を切って、道路を縦横無尽に駆ける。


 足音は鳴らしたり、鳴らさなかったりもした。


 本命か、フェイントか。悩ます程度に焦らした後。


 センスの残滓を漂わせ、気配を殺し、背後に忍び寄る。


「…………っ」


 山勘か、実力か。どちらにしても見事。


 地面を蹴って、ククリの斬撃を避けている。


 こうでなくちゃ面白くない。本題はここからよ。


「――――」


 突如、空中に生じるのは、二刀のククリ。


 センスにより作られた、見えない斬撃の正体。


 意思の力を視認できて、ようやく実体が掴める技。


 ――夢現四刀流。


 実在するククリの斬撃に連動し、発動。


 実在しないククリの斬撃が、敵を追撃する。


 方向と発動は任意。基本は回避した方向に放つ。


 定石通り、メリッサが避けた場所には、十字の斬撃。


「甘ぇんすよ!」


 彼女の足元の影が蠢き、身体を引っ張る。


 肉体の動きに依存しない、独自の回避運動。


 センス産の二刀のククリは空を切って、消滅。


(やるわね。……ただ)


 ここまでが一連の流れ。ここからが腕と能力の見せ所。


「――――――――――」


 バグジーは、ところ構わずククリを振るう。


 生じたのは、無数の斬撃と、手数に応じたククリ。


 上下左右、正面背後。ありとあらゆる角度から切り刻む。


「……くっ!!」


 対処しきれないメリッサは、全身に裂傷を負う。


 致命的な傷は避けつつも、警官服はズタボロの状態。


 後一つでも歯車が狂えば、勝負が決まる。そんな瀬戸際。


「オレを忘れてもらったら、困るね!!!!」


 絶妙のタイミングで背後に迫るのは、閻衆。


 黒いセンスを全身に纏って、右拳を打ちつける。


 力任せの一撃。見るからに肉体系で能力はなさそう。


 あえて大声を発したのは、注意を引くため、でしょうね。


「当然、織り込み済みよ。……右側にご注意を」


 バグジーは左手のククリを空振り、注意を引く。

 

 本命か、フェイントか、どちらから見た右側なのか。


 発言も動作も全てが罠。深読みするほど、土壺にハマる。


 ただ、最後に行きつくところは同じ。すでに種は撒いてある。


 ――彼は一度、右腕を切断された。

 

 同じ場所に二度目は来ない。そう考える。


 だからこそ、山を張り、左腕にセンスを固める。


 飛来するククリを防ぎ、一転攻勢の逆転劇を思い描く。


 ――だからこそ、出力する先は同じ場所。


「…………っ」

 

 閻衆から見た右側には、ククリが発生する。


 振り下ろされた拳を、真一文字に斬り裂く軌道。


 予想した通り、左腕側に大半のセンスを集中してる。


(教科書通りって、感じねぇ。意外性のある子の方が好みなんだけど……)


 読みが当たって嬉しい反面、落胆もあったわ。


 この時期、この組み合わせで戦う機会は二度とない。


 せっかくなら楽しみたいし、予想を超えてきて欲しかった。


「――鋼絲牢翳こうしろうえい苧環おだまき】」


 そこに聞こえてきたのは、メリッサの声。


 周囲の影がさっきよりも蠢き、凶兆を知らせる。


(へぇ……。声を張ったのは、詠唱を隠すためか。悪くないわね)


 狙いは、聖遺物レリックの起動による糸と影の強化。


 起動するためには、詠唱が必要不可欠だった。


 ただ、至近距離で、馬鹿正直に詠唱はできない。


 ――そこで、閻衆をデコイに使った。


 作戦通りか、その場のノリなのかは不明ね。


 どちらにしても、相手の策が機能したのは確か。


 気にすべきは、強化された糸と影が向かっている先。


(問題はこの後。避けないわけにはいかないのよね)


 跳躍し、バグジーは思考する。


 闘宴の間の最奥で、威力は確認済み。


 身体を拘束されでもしたら、敗北が決まる。


 別の能力の可能性が高かったけど、回避を優先した。


「――読み通り。避けるなら上だと思っていた」


 近くで囁かれるのは、閻衆の声。


 頭上には、黒い影を纏った太い右腕。


 放ったはずのククリは地面に転がってる。

 

(巨体、肉体系、斬撃耐性を獲得した拳。……あぁ、たまんない)


 追い込まれた状況を理解し、心が躍る。


 これは彼の能力を遺憾なく発揮できる場面。


 肉体系相手に、センスの量で張り合えば負ける。


 それも、フィジカルが強くて、斬撃耐性付与ときた。


 まともに打ち合えば、分が悪い。誰が見たってそう思う。

 

「受けて立つわ。アナタの太いの、アタシにぶちまけて頂戴」


 バグジーは不利を承知で、待ち受ける。


 単純な力比べ。膂力とセンスと強度の勝負。

 

 技も絡め手もいらない。全部受け止めて、勝つ。


「「――――――ッッッ!!!!」」

 

 互いの意気を乗せたセンスは空中で衝突。


 二刀のククリと、斬撃耐性のある肉体系の拳。


 異なる光をぶつけ合い、夜の街を激しく照らした。

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