第36話 自由の街⑪
自由の街。市庁舎公園沿いにある道路。
パーク・ロウ通りの片側二車線は、封鎖状態。
車を乗り捨て、逃げる住人が大半の中、戦いは続く。
名前:【バグジー・シーゲル】
意思:【1906】
ゴーグル越しに表示されるのは、文字と数字。
体外に纏っている意思の力。顕在センス量の数値。
それに加え、バグジーの周囲には赤い光が見えていた。
(必要最低条件はクリアっす……。問題は……)
メリッサは目を凝らし、視線を上げる。
そこには、二本のククリが宙を舞っていた。
ゴーグルをかける前後で、全く変わらない本数。
――『夢現四刀流』。
そう口にした以上、残り二本がどこかにあるはず。
見えない斬撃を受けた身としては、攻略は必須だった。
『現状の分析が完了しました。攻略対象はバクジー・シーゲルと『夢現四刀流』。目視できる二刀は実在する武器の可能性が高く、目視できない二刀は、敵の能力により透明化され、特定の条件下でのみ見えるものと推測されます。これにより、予期せぬ方向からの攻撃を受ける危険性があります。発生条件は、目視できる二刀の攻撃に連動して、実体化するタイプの能力かもしれません』
骨伝導により響いてくるのは、AIによる考察。
今一番欲しかった情報を、的確に伝えてくれていた。
期待していた以上の情報に、ハッとした顔を作ってしまう。
「攻略の糸口でも掴めたかい?」
表情の変化に気付いた閻衆は、尋ねる。
切断された右腕は回復し、生えてきていた。
強敵と未知の能力を前に、焦りが全く見えない。
さすがは、ヤクザの頭を張れるだけの鬼ってところ。
「見えない斬撃の実体化は通常攻撃の後……かもしれないっす」
メリッサは要約して、小声で攻略情報を伝える。
合ってるかはともかくとして、取っ掛かりにはなる。
ここからは閻衆と作戦を練り、能力を立証するのが無難。
「だったら、オレがデコイに――」
「試す必要はないわ。今の考察で正解よん」
前向きに話が進む中、バグジーは手の内を明かす。
両手にはククリを握り込んで、臨戦態勢になっていた。
「生憎っすけど、敵の言葉を真に受けるほど馬鹿じゃないんすよね」
身動きに細心の注意を払いつつ、会話に応じる。
恐らく、嘘。心理戦を仕掛けられてる可能性が高い。
的外れな案を信じさせるための罠のような気がしてくる。
「信じるかどうかは自由。ただ、断言しておくわ」
真偽は不明ながら、感じるのは絶対的自信。
ごくりと唾を飲み込んで、続く言葉を待ち受ける。
口を挟む余地なんてなく、聞き届ける以外の選択はない。
「――アナタたちは苦痛でのたうちまわった挙句、降参する」
バグジーは気持ちいいほどの威勢を張り、その場から消えた。