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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第35話 自由の街⑩

挿絵(By みてみん)





 自由の街(アガルタ)。連邦準備銀行、地下。巨大金庫前。


 行く手を遮るのは、貴族服を着た黒髪細目の悪魔。


「いつでもいいよ……かかっておいで」


 黄色のセンスを纏い、澄ました顔で言った。


 能力の詳細と戦闘スタイルは、今のところ不明。


 顕在センス量は控えめ。独創世界を扱うから芸術系。


 現状の情報を分析して、分かることと言えばそれぐらい。


 誘いに乗ってあげたいところだけど、戦うには理由が重要だ。


「その前に確認です。奥には大量のチップがあって、開けられるのは、あなただけ。それで間違いありませんか?」


 そこでジェノが行ったのは、前提条件の整理。


 的外れだったら、戦うかどうか以前の問題だった。


「理由を重んじるタイプか。……そうだよ。私を倒せば、開けてあげてもいい」


 背後の金庫を叩き、悪魔は快く情報を開示する。


 彼を倒せば金庫が開き、大量のチップが手に入る。


 実にシンプルで、分かりやすく、実益のあるルール。


 戦うに足るだけの理由が、間違いなく目の前にあった。


「分かりました。だったら、一つ提案があります」


 ただ、学んできたのは、戦う術ばかりじゃない。


 ドイツでは、セレーナから交渉の術を叩き込まれた。


 敵であっても、互いの利害を一致させる作業が最優先だ。


 あくまで戦闘は、交渉が決裂した場合の最終手段に過ぎない。


「聞かせてもらえるかな?」


 交渉相手の悪魔は、素直に耳を傾ける。


 スタートラインには立てた。後は中身の問題。


「侵入者一人につきチップ五千枚。俺を用心棒として雇いませんか?」


 与えられた情報の中から、最適と思った案をぶつける。


 直後、ズドンと落雷めいた轟音が、頭上の方から鳴り響いた。


 ◇◇◇


 連邦準備銀行。地下行きのエレベーター内。


 辺りは青い光に包まれて、制御盤には電流が走る。


 ガタンという音と共に、エレベーターは下降を始めたね。


「……やるならやると言って欲しいよ」


 意図を理解し、げんなりした顔で蓮妃は語る。


「演技と生体認証。双方を貫く必要があった。そこで選んだのが雷光よ」


 軍服の男は、金色の義手を見せびらかし、言った。


 その中身は、能力によって精神が入れ替わったシェン。


 エレベーターの外には、軍服の男の身内が二人ほどいたね。


 敵を騙しつつ、下階に侵入する。結果だけ見たなら、悪くない。


「一石二鳥か。……まぁ、今回は許してやるよ」


 そこで会話は終わり、エレベーターは最下層に到着。


 扉が開かれると、見えてきたのは、巨大金庫と悪魔と少年。


 一目見て察したね。目的を達するためには、避けて通れない難敵。


「手合わせ願います。……蓮妃さん」


 ぺこりと頭を下げ、適性試験の英雄が立ちはだかった。


 ◇◇◇


 連邦準備銀行。一階、エレベーター付近。


 地面に横たわるのは、紛れもなくシェンだった。


「恐喝か……思った以上に手荒いな……」


 響く雷鳴に、ベクターは反応を示す。


 確かに、状況だけ切り抜けば、そう見える。


 ただどうも、頭の隅っこで引っかかることがあった。


「玉鏡星、ねぇ……」


 七星螳螂拳はパオロの兄貴が使う技だ。


 王位継承戦前に、その一部を教えてもらった。


 シェンが失神寸前で放つ技には、覚えがあったんだ。


「何か引っかかることでも……?」


 訝しむ様子に気付いたベクターは、尋ねてくる。


「あぁ……この爺さんが倒れ際に放った技は、相手との認識を入れ替えるもんだ。方向感覚を狂わしたり、体の不調を相手に移動させることもできる。もしかしたら、それ以上の能力があったかもしれねぇ、と思ってな」


 包み隠さず、知り得る情報を全て伝える。


 別に隠すようなことでもねぇ。共有は必須だった。


「入れ替えか……安易な考えなら、精神が入れ替わった可能性もあるが……」


「それだ!」


 ベクターの回答に、頭の中でピタリとハマるものがあった。

 

 むしろ、それ以外に適切な答えなんかねぇような気がしていた。

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