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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第34話 自由の街⑨

挿絵(By みてみん)




 

 ジルダ・マランツァーノ。


 未来から来たジェノとラウラの娘。


 接触できたのは、去年の夏頃のシチリア島。


 『ストリートキング』決勝が終わりを告げた後だった。


『流星と見紛うようなボルド選手の凄まじい蹴りを受け、ジルダ選手は地面へ急直下。ボルド選手の勝利に見えたが、結果は、ダブル、ノックアウト……っ! 第十二回ストリートキング決勝は、まさかの両者引き分けで、幕を閉じ、た……』


 武舞台だったギリシャ劇場では、実況の声が響く。


 衝突した二名は地面をえぐり、劇場地下の神殿で停止。


 実況者が目視をせず、結果を確信したのには、理由がある。


 ――両選手がつけた黒のゴーグル。


 体力と試合進行を管理。実況者も同じ物で情報共有。


 AIのガイドと、素人でもセンスを視認できる機能もある。


「引き分けっすか……」


 バニースーツを着るメリッサは、語る。


 穴が開いた神殿上部には、赤い月が浮かぶ。


 ジルダがボルドを殺せば、正気を失って、暴走。


 大量の観客を襲い、ラウラが暴走を止めるのが未来。


 儀式の条件を満たし、白き神が完全復活するはずだった。


『クエスト失敗。冒険者失格だな』


 青年声で語りかけてくるのは、肩に乗る蝙蝠。


 聖遺物カマッソソ。目的や素性が一切不明の人物。


 発言から察するに、白き神の完全復活がお望みらしい。


「いや、クエストはこれから始まるんすよ」


 倒れるジルダを抱え、メリッサは神殿を後にする。


 なんの合意もない一方的な誘拐。最低最悪の接触だった。


 ◇◇◇


 シチリア島南部。水中都市ラグーザ。


 元々は、内陸にある丘の上の都市だった。


 それが、白き神が降らした隕石により、沈没。


 シチリア島の南半分が海に沈む中、唯一生き残る。


 水深約3000メートルの地点で、被災者は生活していた。


「海に沈む、パンナ、コッタ……」


 腕を伸ばし、夢見心地でジルダは目を覚ます。


 長い灰色の髪に、童女のような幼い顔つきの少年。


 深海魚が描かれる、真新しい青のパジャマを着ていた。


「ミザっ!!!」


 起床に反応したのは、長く白い髪をした少女。


 黄金色の瞳を両目に宿し、白いワンピースを着る。


 名前はミザリー。コキュートスにいた『洞窟男《UMA》』の娘。


 メリッサに拾われ、与えられた役割は、ジルダを守ること。


「あなたは誰……? ここはどこ、です……?」


 ベッドから起きたジルダの頭上には、吹き抜けの天井。


 そこには深海と深海魚。ドーム状に広がる透明の膜があった。


「あぁ、そいつは……俺から説明させてくれ」


 問いに対し、答えたのは銀髪の男。


 黒のシルクハットを被り、黒スーツを着る。


 ――名前はジャコモ・ラグーザ。


 イタリアンマフィア、ラグーザファミリーの頭を張る。


 ミザリーが加入するより少し前に、メリッサに拾われていた。


「…………」


 見知った人物を前に、ジルダはこくりと頷く。


 ストリートキングの元対戦相手。他人ではなかった。


「俺たちは命をかけてお前を守る。その代わり、未来に帰る手段が見つかったら、未来人は大人しく未来に帰ってくれや。メリッサの姉御が言うには、お前の膨らみ続ける意思の力が暴走すれば、世界どころか、宇宙を滅ぼすらしいからな」


 語られたのは、ジルダにとって聞き覚えのある話。


 耳を塞いで聞かないようにしていた、恐るべき内容。


 決勝で起きた、センスによる集団昏倒事件の延長線上。


「ボクのエゴが宇宙を壊す……」


 ジルダは誰よりも真剣に言葉を受け入れ、自らの運命を悟った。 


 ◇◇◇


 自由の街(アガルタ)。四分割された警察車両が転がる、道路。


 両手にククリを持つ赤髪ピエロに、立ち向かう者がいた。


「ジルダを探して、何をするつもりなんすか……っ!」


 糸と影を放ち、メリッサは問いかける。


 その間にも閻衆は距離を詰め、懐に迫った。


「殺すために、決まってるでしょ。ガンは早めに、切除するべきよ」


 バグジーはククリを巧みに扱い、糸と影を切断。


 話す内容から考えて、抱える問題を全て知っている。


 その回答として、ジルダの殺害は一つの結論でもあった。


「進行する前に治療できるなら、それに越したことはないっすよね!」


 負けじとメリッサは、糸と影を飛ばし応戦。


 反論も交えて、互いの主義主張は平行線を辿る。


「悪化してからじゃ、遅いのよ。今なら楽に、治せる」


「一人の人間、殺すんすよ。腫瘍とはワケが違うっす!」


「一人の犠牲で八十億人。……いいえ、宇宙を救えるなら手を下すでしょ」


「それが娘でも、やるんすか!? 他に救える手段があるなら待つべきっす!」


 戦闘も論争も譲り合うことなく、五分五分の状況が続く。


 ただ、今の一言で空気が変わった。地雷を踏んだような感覚。


「――――」


 奇しくも、最悪のタイミングで閻衆が右拳を放つ。


 何かが起きる。そんな予感がありながら、手を動かし続けた。


「……やるわよ。アタシは『組織』の人間なの。任務なら私情は挟まない」


 驚くほど低い声音でバグジーは語る。


 同時に、近くに迫った閻衆の右腕は切断。


 赤い血が飛び散り、ドスンという音が鳴った。


(今の……どうやって……)


 両手のククリは、糸と影に手一杯。


 どう考えても手が回らないのに、迎撃した。


「――――っっ。気を付けろ、こいつの能力は!!」


 閻衆は鬼。再生能力があるから、致命傷じゃない。


 止血しつつある右腕をかばいながら後退し、忠告する。


「……っっっ!!」


 聞こえた瞬間に、地面を蹴った。


 直後、腹部から焼けるような痛みが走る。


 黒服の一部と皮膚を切断され、血が発生していた。


 ――見えない斬撃。


 恐らく、センス由来の攻撃。


 意思の力を使えれば、察知できる技。

 

夢現むげん四刀流。センスがないアナタには、攻略不可能よ」


 バグジーはククリでジャグリングしながら、余裕面で語る。


 負けるとは微塵も思ってない、圧倒的強者からの上から目線。


「あぁ……そっちがその気なら、こっちにも考えがあるっす……」

 

 ムカっとする気持ちを抑えつつ、黒服の懐に手を伸ばす。


 取り出したのは、黒のゴーグル。ストリートキングの必需品。

 

『起動を確認しました、マスター。何なりと命令をお申し付けください』


 盗聴される心配のない骨伝導により、聞こえるのは機械的な声。


 ゴーグルに備わった人工知能。こいつには、画期的な能力があった。


「意思の力。……いや、センスの可視化と、戦術的サポートをお願いするっす!」

 

 メリッサは希望を告げると、見えなかった世界が、見える世界へと一変した。

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