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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第30話 自由の街⑤

挿絵(By みてみん)




 自由の街(アガルタ)。ニューヨーク市警察署。取調室。


 手狭な空間に、机とパイプ椅子が置かれた部屋。


 目の前には閻衆が座り、聴取が始まろうとしていた。


「これから取調べを行うが、供述が法廷で不利な証拠になる場合があり、お前には黙秘権と弁護士の立ち合いを求める権利がある。費用を負担できない場合は、公選弁護人を選定することになるが、何をお望みかな?」


 語られたのは、現実と全く同じフローチャート。


 聞き覚えのある台詞の羅列に、反吐が出そうになる。


 どれもこれもが面白くない。自由の街である意味がない。


「欲しいのは賄賂。そうっすよね。つまるところ……いくら欲しいんすか」

 

 一切合切の手順を省略して、メリッサは本題を切り込んだ。


 相手がプレイヤーなら、目的は特急権用のチップを集めること。


 真面目に警察の職務をこなして稼ぐのは、どう考えても効率が悪い。


 ――そこで選ぶ手段が、賄賂。


 捕まったプレイヤーから、チップを押収すれば効率がいい。


 捕まった側からすれば、早く解放されたいだろうし、理に適っていた。


「チップ二百枚で手打ちだ。それ以上の譲歩はしない」


 閻衆は迷うことなく、即答した。


 現在の所有チップは、二百五十六枚。


 頑張ったら払えなくもない、絶妙な金額。


 値切り交渉も見通す、強気な価格設定だった。


(織り込み済みってわけっすか。上等っすよ……)


 有利な展開を押し付けるだけの手腕。


 肩書きにそぐわない実力を発揮していた。


 逆に言えば、こっちが試されてることになる。


「うちを警察として雇い、あんたの相棒になると言えば、どうするっすか」


 メリッサは奇策を講じ、話を転がしていく。


 転職活動の敷居が低いと読んだ、攻めの一手。


 受け手の閻衆は、ほんの少し口元を緩めていた。


 ◇◇◇


 自由の街(アガルタ)。高層マンション最上階。ペントハウス。


 街並みを一望できる、全面ガラス張りのリビングルーム。


 エンパイアステートビルが崩壊し、景観が少し損なわれていた。


「……単刀直入に言うね。手っ取り早く稼ぐ方法はナイか?」


 そこに訪れた蓮妃は、早速、取引を持ち掛ける。


 目の前には、背を向けて、景色を眺める辮髪の老人。


 取り巻きは四名。恐らく、元々の配下から厳選した精鋭。


 全員、黒色のチャイナ服を着用して、空気はピリピリしてた。


 最悪、修羅場もあり得る。そんな歓迎されないムードに感じたね。


 ――ただ、決定権があるのは中国マフィアの頭。


「銀行を襲う。ちょうど、人手を欲していたところよ」


 シェンは快く歓迎し、次なる目標が示される。


 腕がなる展開。修羅場はこれから起きるみたいね。


 ◇◇◇


 自由の街(アガルタ)。南東にある、ブルックリン橋。


 エンパイアステートビルに次ぐ、観光名所。


 イースト川をまたいで、街と街を繋いでいる。


 その終わりに位置する歩道に二人組の男がいた。


「……駄目だ。これ以上は進めねぇな」


 足を止めるのは、ルーカスだった。


 ペタペタと目の前の空間を触っている。


 伸ばした手は、それ以上進んでいなかった。


「裏口があると踏んだが……読みが外れたか……」


 状況を受け止め、ベクターは途方に暮れている。


 車や人の往来はあるものの、プレイヤーは進めない。


「考えていることは、同じと見えるな。……同志よ」


 そこに現れたのは、迷彩柄の軍服を着た男。


 吊橋の上部から颯爽と登場したのは、マクシス。


 ロシアンマフィアの頭ながら、単独で行動していた。


「今になって接触か。何が望みだ? 大してチップは持ってねぇぞ」


 ルーカスは身構え、予期せぬ来訪者を警戒する。


 同じくベクターも、拳を構えて、合図を待っていた。


「裏口が駄目なら、正攻法。プレイヤー狩りと洒落込もうじゃないか」


 マクシスは空気を察しながら、話を切り出す。


「悪くはねぇが、手当たり次第ってのはモラルに欠けるな。目星はあるのか?」


 即断せず、ルーカスは慎重に話を掘り下げていく。


 むしろ警戒を強め、狩られる側に回ることを危惧していた。


「とびっきりの犯罪者。例えば、強盗を起こす卑劣な輩だったら、如何かな?」


 問いに対し、出てきたのは具体的な例。


 二人は顔を見合わせ、同じような表情に至る。


 間の抜けた顔のように見えながら、感情が滾った顔。


「……ハワイの一件以来だな。受けてやるよ。一時共闘ってやつだ!」


 握手を交わし、少数精鋭の部隊が形成される。


 夜のマンハッタンは、不穏な空気を醸し出していた。

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