表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/156

第26話 自由の街①

挿絵(By みてみん)




 ザ・ベネチアンマカオ地下41階。自由の間。

 

 見えるのは、街並み。広がるのは、無数の摩天楼。


 夜更けの闇を、ネオンと野外広告の灯りが照らしている。


 あまりにも既視感のある光景。思いつくのは、ある地区の名前。


「ここって……マンハッタンっすか?」


 雑居ビルの自動扉から現れたメリッサは、感想を漏らす。


 ニューヨークの中心地と変わりない景色に、思わず息を呑んだ。


「厳密には、都市を丸ごと模倣した独創世界じゃナイか」


「せかせかした人も荒っぽい車も、甘ったるい空気も全部同じだ」


 遅れてやってきた蓮妃とジェノが反応を示す。


 独創世界で、現地民を騙せるほどの都市を再現した。


 意味と理屈を納得できても、その用途が全く見えてこない。


「独創世界だとして、ここで何をやらせるつもりなんすかね……」


 人通りが激しい交差点を見つめ、メリッサは一番の疑問を口にする。


『ルールがないのがルール。それこそがここ、『自由の街(アガルタ)』の魅力さ』


 返ってきたのは、誰でもない第三者の声だった。


 飄々とした印象を受ける、口が軽そうな男性の言葉。


 ふと脳裏に浮かんだのは、貴族服を着る黒髪細目の悪魔。


「……なーにが、アガルタっすか。丸パクリの上に、丸投げなんすよ」


 彼が口にしたのは、地底にあると言われる理想都市の名前。


 高度な科学文明で、犯罪がないレベルに統治された場所を指す。


 その名を冠するには、あまりにも現実に近すぎる。ずさんな世界観。


『失敬だね。文句を言うなら説明は省くけど、いいのかな?』

 

 すると彼は、変わらぬトーンで、失言を咎めてくる。


 ある意味で脅し。謝罪しなければ、ゲームが不利になる。


 正直、心の底から謝りたくないし、突っぱねてやりたかった。


「……あぁ。今のはうちが悪かったっす。詳細を教えてもらっていいっすか?」


 ただ、身勝手な行動で味方を貶めるわけにはいかない。


 チームで攻略する以上、意地を張ってる場合じゃなかった。


『素直な子は好きだよ。約束通り答えるとしよう。……この世界には、PC(プレイヤーキャラ)NPC(ノンプレイヤーキャラ)がいて、文明レベルと統治体制は現代のマンハッタンに依存する。通貨はチップが使われ、稼ぎ方は自由。警察、救急隊、飲食店、メカニック、マフィア、etc(エトセトラ)。職業はなんでもアリさ。個人間でルールを定めて賭博をしたっていいし、上に行くのを諦めて、ここで暮らしたっていい。それが『自由の街(アガルタ)』たる由縁さ』


 語られるのは、オープンワールドのゲームと似た形式。


 説明だけを鵜呑みにするなら、それ以上でも以下でもない。


 ただ、この世界は恐らく、舞台と設定を自由に変更できるはず。


 使い手の発想次第で、いくらでも応用が利く、理想都市になり得た。

 

(名前負けは、してないかもっすね……)


 能力の核心を一人理解したメリッサは、黙々と思考を巡らせる。


「プレイヤーかどうかを見分けるには、どうしたらいいんですか?」


 そのわずかな隙間を埋めたのは、ジェノだった。


 攻略する上で欠かせない情報を、的確に突いている。


『いくつかあるが、手っ取り早いのは、意思の力の有無だね。今は省エネ設定だから、NPCにセンスを扱える人間はいない。当たりをつけたら、色々と試してみたらいいんじゃないかな。……ただし、法律やモラルに反した場合、痛いしっぺ返しがあるかもしれないけどね』


 悪魔の言い分を要約するなら、やり方は選べ。 


 現代の法律が適用されるなら、好き勝手できない。


 警察になったプレイヤーがいるなら、なおさらだった。


「次の特急権の値段と、上に通じるエレベーターの位置を教えるね」


 そう考えていると、蓮妃が必要な質問を重ねる。


『特急権は五千枚。上階へのエレベーターはエンパイアステートビルにあるよ』


 次なる目標が告げられて、全員の視線は自ずと揃っていた。


 その先には、軒を連ねる摩天楼の中でも、特に目立っているもの。


「あれが今回のゴールってわけっすか。上等っすね。うちらなら絶対に――」


 意気込みを新たに、拳を握り込む。


 自由な世界で成り上がる姿を浮かべる。


 無限に広がる可能性に、ワクワクしていた。


「「「…………え」」」


 しかし、三人の眼前にはショッキングな光景が広がる。


 エンパイアステートビルの倒壊。目標にしていた地点の消失。


 人々の悲鳴が響き、自由の街(アガルタ)には早くも混沌が訪れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ