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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第23話 鬼門闘宴⑨

挿絵(By みてみん)




 ゲーム理論。初めて言われた時、ギョッとした。


 その時が来るまでは敵味方問わず、いい顔を続ける。


 自然と関係性が構築され、相手は言う事を聞く駒になる。


 自分のことかもしれない。頭の片隅にはそんな予感があった。


 ――でも、違った。

 

 駒なんて絶対思ってない。

 

 そうじゃないと説明がつかない。


「てめぇ……っ!!!!」


 損得や利害関係からは、逸脱した感情。


 誰かのために、心はこんなにも昂ぶっている。


「落ち着くね、メリッサ。冷静さを欠いて、勝てる相手じゃナイよ」


 そこで声をかけてきたのは、反対方向に回避した蓮妃。


 その視線の先には、ダンジョン最下層にいたのと同じ敵。


 大型の未確認動物(UMA)。鬼にも悪魔にも該当しない未知の存在。


「――――」


 相手は片足を大きく上げ、巨大な影が生じる。


 ザッと目算しても、全長二十メートル以上の範囲。


 狙いは的確。回避に徹して、ようやく間に合う距離感。


(冷静に、それでいて、熱く……)


 蓮妃のアドバイスを受け入れ、己に集中する。


 敵の攻撃範囲には、戦闘不能のアミの姿が見えた。


「燦爛と輝く命の煌めきよ、幽々たる深淵に覆われ、虚空の闇へと堕ちよ――」


 メリッサが唱えたのは、聖遺物レリックの起動詠唱。


 内に宿りし、未知の力を呼び起こすための呪文。


 その間にも、巨大な踵が迫り、影は濃くなっていく。


 すでに回避不能の距離。詠唱は自らを窮地に追い込んだ。


 ――その効果は甚だ大きい。


鋼絲牢翳こうしろうえい鉄線花てっせんか】」


 装着された白と黒の両手袋から生じるのは、絲と翳。

 

 先ほどのものよりも一段階強化された、変幻自在の異能。


 黒い根が張り、茎が伸びて、葉が実り、白い花が咲き乱れる。

 

 実在する花を形成し、迫った片足を絡めとる。花言葉は甘い束縛。


「――――――ッッ」


 すると、敵のスタンプ攻撃は肌に触れる寸前で止まる。


 相手は顔を歪め、言葉を発さないものの、動揺の色を示す。


 気付けば、異能の花は全身を縛りつけて、身動きを止めていた。


 凍結能力のある凍てつく風も、羽根を封じられては使いこなせない。


「人間は成長する。あの頃とは、住んでる世界ステージが違うんすよ」


 メリッサは、歩みを止めた化け物に、その敗因を言い放つ。


 次の瞬間には、ぐしゃりと音を立て、物言わぬ残骸に成り果てた。


 ◇◇◇


 闘宴の間。天井桟敷。第四鬼門側、観覧席。


 その通路側では、パネルを操作する人物がいた。


「ほらね、言った通りになったでしょ」


 勝ち誇るような顔で、自分事のように語るのはジェノだった。


 賭けは的中し、払い戻しは十倍。獲得したチップは八百八十八枚。


 保険で残した一枚を加えると、手持ちの合計は八百八十九枚になった。


「そうみたいだけど……言った通りにならなかったこともあるだろ」


 同じくパネルを操作している、マルタの顔色は暗かった。


 何にいくら賭けたかは、不明。理由はおおよそ、察しがつく。


「賭けのことなら、俺が勝ち分で補填――」


「違う。アミが凍ったことだ。黒鋼こっこうはもうないんだよ」


 言い当てようとするも、すぐさま事実を告げられる。


 感性の鈍化。内に宿す白き神の精神同調。神格化の影響。


 ジワジワと蝕まれる目に見えない不調が、可視化されていく。


「……そのことなら、ご心配なく。俺に考えがあります」


 どんよりとした気持ちで今の症状を受け止め、前を向く。


 人間でいられる時間が少ないことを感じながら、歩みを進めた。

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