表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
22/156

第22話 鬼門闘宴⑧

挿絵(By みてみん)




 闘宴の間。第四鬼門、煙波縹渺えんぱひょうびょう。進行度99%。

 

 曇り夜空が映る水面に、揺れているのは三つの波紋。


 足並み揃うメリッサたちは、最後の赤いマスにたどり着く。


「終点っと。できれば、もう少し歯応えがある相手がいいっすね」


「同感よ。ここまで雑魚ばかりで、準備運動にもならなかったね」


 メリッサと蓮妃の二人の言動には、余裕が垣間見える。


 未踏のダンジョン攻略者の身からすれば、物足らない難易度。


 一度味わった、艱難辛苦と成功体験。それが病みつきになっていた。


「…………」


 それを後ろで見つめるアミの表情は暗い。


 言いたいことがあっても、口には出さない。


 何事もなく終わることだけを切に願っていた。


『忠告しておこう。ここを踏破した者はいない。それでも挑戦すると申すか』


 どこからともなく響くのは、天海の声。


 常識がある人間なら、及び腰になるような内容。


 普通の思考であれば、降参する選択肢が嫌でもチラつく。


「「――上等 (っす)(よ)」」


 しかし、二人にとってそれは、ただの煽り文句に過ぎない。


 困難を受け入れ、不可能を可能にすることを至上の喜びとする。


 未知という言葉が放つ魔力に魅せられた、根っからの冒険者ハンターだった。


『よかろう。降参は自由。勝てば、チップ千枚の褒美を遣わす。心してかかれ!』


 天海は快い返事に感情を乗せ、戦闘開始の合図を告げる。


 互いに同意の下、鬼門闘宴、最後の幕が上がろうとしていた。


 ◇◇◇


 闘宴の間。天井桟敷。第四鬼門、観覧席。


 そこでは、ガヤガヤと雑多な声が響いていた。


 人がまばらに集い、メリッサ一行の挑戦を見守る。


 到達に賭けた者。賭けなかった者。威力偵察に来た者。


 思惑は違えど、未踏に挑む姿勢に、大衆は魅了されていた。


「……〝アレ〟に勝てると思うかい?」


 マルタは眼下を見つめながら、月並みな質問をぶつける。


「勝てますよ。メリッサなら、なんとかするはずです」


 ジェノが寄せるのは、絶大な信頼。


 瞳には曇りがなく、迷いも疑いもない。


「根拠は?」


 言葉を鵜呑みにせず、マルタは発言を掘り下げる。


 敵の過小評価と味方の過大評価。それを危惧していた。


「エンジンが入った彼女は誰にも負けない。ただの経験則ですよ」


 キッパリと言い切り、ジェノは戦況を見つめる。


 根拠は明確ではなく、分かる人にしか分からない回答。


 ただその言葉には、真実だと信じ込ませるような熱があった。


 ◇◇◇


 空気が振動し、地面が揺れる。


 開かれるのは、最奥にある大きな門。


 そこには、満を持して現れた化け物がいた。


「――――」


 見えたのは、百メートル級の巨躯。


 男と女の顔が分かれた、毛むくじゃら。


 四本の黒角に、四枚の黒羽根を持った異形。


 尻尾はなくて、悪魔の特徴とは一致しない存在。


 メリッサは、それを知っている。深く熟知している。


未確認動物(UMA)……っっ!!」


 その言葉を皮切りに、戦いは始まった。


 先手を切ったのは、悪魔を模した未確認動物。


「――――」


 四枚の羽根を使い、風を巻き起こす。


「まずいね、こいつは……っ!!」


 次に正体を察し、反射的に回避を選んだのは蓮妃。


「避けるっす! おばあちゃん! こいつの能力は――」


 メリッサもすぐさま気付き、地面を横に蹴り、忠告する。


 視線を送った先には、未知の存在に困惑している祖母の姿。


「…………あ」


 冷たい風が吹き抜け、アミの無残な声が響く。


 たった一瞬の判断の淀み。それが致命傷に誘う。


 その全身は凍てつき、戦闘不能状態に陥っていた。


「てめぇ……っ!!!!」


 メリッサは激昂し、最後の闘宴は最悪のスタートを切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ