第21話 鬼門闘宴⑦
闘宴の間。第三鬼門、万古千秋。進行度51%。
紅葉が咲き乱れる山間に、無数の赤い橋がかかる。
日は西に傾き、夕焼けの曇り空が辺りを照らしている。
ここまで連続性があったら、製作者の意図が透けて見える。
「春に夏ときて、次は秋っすか。テーマは『四季折々の風情』ってところっすね」
メリッサはサイコロを手にしながら、感想を語る。
素直な見方じゃなく、穿った見方。ある種のメタ目線。
ダンジョン攻略時に培った、クセ読みという名の危険予知。
「解像度がまだ浅いよ。コンセプトは『四季に対応したモンスターハウス』ね」
そこで偉そうに付け加えたのは、蓮妃。
慣れ親しんだ、いつもの流れってやつだった。
懐かしくもあり、苦労した過去が頭をよぎっていく。
「見事な考察ですね。どんな修羅場を経験してきたのですか?」
一歩後ろにいるアミは素直に賞賛し、理由を探る。
深く考え込むまでもなく、思いついたのは一つの答え。
「「地獄の底 (っすね)(ね)」」
二人の声は重なり、当時の思い出が蘇った。
◇◇◇
ダンジョンコキュートス。第八樹層。深窟の間。
紫水晶の光源頼りに、メリッサ一行は攻略を進める。
身体はフワフワと浮き上がり、無重力状態が続いていた。
「予想通り、次は反重力ってわけっすね……」
黒のバニースーツを着るメリッサは、事象に反応する。
首元には、黒いバンダナがスカーフのように巻かれていた。
狭い洞窟状の道を、慎重に飛び跳ねながら、前進を続けている。
「第一樹層と第五樹層。第二樹層と第六樹層。第三樹層と第七樹層。それらは全て対だった。それなら、第四樹層と第八樹層も同じだと思ったよ。名付けるなら、『等差反転の法則』ね。我の冴え渡る頭脳に感謝するがいいよ」
赤いチャイナ服を着る蓮妃は、偉そうに答えた。
右腕には、メリッサと同じ黒いバンダナが巻かれる。
その背中を遠くから見つめていたのは、もう一人の仲間。
「偉ぶるのはいいが、結果で見せてもらわんとな。……ほれ、見えたぞ」
黒い和服を着た、坊主頭に白髭を生やす老人――夜助。
頭には黒のバンダナ。片手には、洞窟を照らす紫水晶を持つ。
警戒心を強める鋭い瞳は、洞窟を抜けた先の広い空洞を見ていた。
「……いよいよ、地獄の親玉の登場ってわけっすね」
拳を手のひらに打ちつけ、メリッサは最下層の主を見る。
三人の共通目的は、ダンジョンを攻略して、自由になること。
ゴールが目前に迫り、各々の顔は引き締まり、重い空気に満ちた。
「…………」
次第に見えてきたのは、湖と百メートル級の巨躯。
獣のような体毛を生やし、男と女の顔が左右に分かれる。
四本の黒角に、四枚の黒羽根を生やし、辺りは凍りついていた。
「「「――――――」」」
三人は同時に息を呑み、足が止まる。
ダンジョン最下層を飾るにふさわしい異形。
勝負が始まる前にして、精神は負けを認めていた。
◇◇◇
闘宴の間。第三鬼門、万古千秋。進行度80%。
「……と、まぁ、こんなことがあったわけっすよ」
メリッサは軽い口調で、過去の栄光を語る。
その足元には、赤いマス目と、鳥と猿のキメラ。
すでに決着はつき、第三鬼門の攻略は完了していた。
「納得ですね。強さの一端が理解できたような気がします……」
アミは首を何度も縦に振り、話を受け入れる。
一般人なら嘘だと思われても仕方がない内容だった。
ただ、血縁者+滅葬志士という組み合わせが信憑性を高めた。
鬼を狩るのが滅葬志士の仕事。異形や魔物は珍しい存在じゃないはず。
「昔取った杵柄ね。過去は過去、今は今よ。誇るようなもんじゃナイ」
一方、蓮妃は眉をひそめて言い放つ。
過去の教訓か、思い出したくないトラウマか。
いずれにしても、彼女の言う事には、一理も二理もある。
「だったらこの調子で、過去のうちらを超えるまでっすね!!」
メリッサは次の門へと手をかけ、破竹の勢いで攻略を進めていった。