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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第20話 鬼門闘宴⑥

挿絵(By みてみん)




 闘宴の間。第二鬼門、九夏三伏きゅうかさんぷく。進行度49%。


 サイコロの出目に従い、着いたのは赤色のマス目。


 進行度のチェックポイント。攻略すれば50%を超える。


「さぁって……今度は、どんなケダモノが相手っすか!!」


 肩を回し、メリッサは万全の体勢で待ち構える。


 砂漠の猛暑による疲労を感じさせない、壮健っぷり。


 すでに厳しい環境に適応し、楽しむ余裕すら感じられた。


「…………」


 その頼もしい背中を、アミは見つめる。


 戦闘力、異能力、状況分析力、環境適応力。


 粗削りではあるものの、目を見張るものがある。


 孫娘の成長を、伝聞ではなく、肌感覚で感じられた。


(ポテンシャルが高いゆえに、歯がゆいですね……)


 ただ惜しむらくは、意思の力が使えないこと。


 どれだけ今の力を極めても、いずれ頭打ちになる。


 センスがないと、一部攻撃が見えず、能力を防げない。


 視覚的にも、戦術的にも、大きなハンデキャップを背負う。


「無理に躾けても反発するだけ。やりたいことをやらせるのが一番よ」


 そこで声をかけてきたのは、蓮妃だった。


 胸の内のもどかしさを察し、的確な答えを示す。


 若い見た目の割に、含蓄のある人生観が滲み出ていた。


「一理ありますね。娘に剣道を教えようとしましたが、選んだのは科学でした」


 経緯はともかく、彼女の考えには同意しかない。


 実の娘がそうなったという事例が、共感を強めた。


「功績は残したか?」


「ええ、かなり……」


「だったら、やることは一つね」


「孫の選択を信じ、見守るのみ、ですね」


 短い応答の中で、教育方針が明確に定まる。


 迷いはなく、起こるべき事象を、ただ待ち受ける。


「―――――――」


 すると、突如、足元が大きく揺れる。


 戦いの予兆。予測の範囲内にある事態。


(手を貸すまでもありませんね……)


 おおよその力量を察し、腰の伸ばした手を止める。


 直後、メリッサの足元には、色濃い影が形成されていた。


「――――――ッッ!!!」


 餌に食らいついたのは、馬顔の青蛇。


 砂地から飛び出し、メリッサに食らいつく。


 全長約十メートル。戦車と匹敵する程度の大きさ。


 まともにやり合ったら、まず勝ち目のない質量を有する。


「――――」


 ただ馬蛇の牙は獲物に届かない。


 噛みつこうとする寸前で止まっている。


 攻撃を止めたのは、異能力で編み込まれた網。


 影で広く型を取りつつ、糸を網目状に張り巡らせた。


 残すところは仕上げ。かかった獲物を仕留めるだけの作業。


「……キャッチ、アンド、デストロイ!!!」


 異能の網は、きつく締まり、敵を圧殺。


 一撃も食らわないまま、完封勝利を収めていた。


 ◇◇◇


 闘宴の間。第四鬼門側、天井桟敷。


「フェンリル? なんのことだが、分かんねぇな」


 瀕死の重傷から治ったルーカスは、シラを切る。


 助けられた恩なんて、微塵も感じてない様子だった。


「しらばっくれても無駄ですよ。こっちには証人がいるんです」


 すぐさまジェノは、畳で正座しているマルタに視線を送った。


 恐らく、彼女は聖遺物から人間に体を乗り換える作業に関与したはず。


「………………」


 しかし、期待していた反応は返ってこなかった。

 

 視線を落としたまま動かず、口は真一文字に結ぶ。


 何かしらの事情があって言えない。そんな空気感だ。


「どうやら、心当たりはないみてぇだぜ。話は終わりだな」


 ルーカスは立ち上がり、その場を去ろうとする。


 引き留められる理由もなく、他に使えそうな証拠もない。


「……どうして、妹を組織に落としたこと、黙っていたんですか」


 だからこれは、ただの八つ当たり。


 なんの意味もない、感情の発散だった。


 まともな答えなんて返ってくるはずがない。


 のらりくらりと質問を上手くかわされるだけだ。


「俺はフェンリルってやつをよく知らねぇが、お前ら兄弟の経緯と関係値、リーチェってやつのことは、なんとなく知ってる。それらを客観的に目撃した、第三者目線の内容だったら答えてやってもいいぜ。助けられた、せめてもの礼だ」


 返ってきたのは、ずるい大人の回答だった。


 本人と認める証拠がないだけで、本人と認めてる。


「……お願いします」


 力不足を嘆きながらも、ジェノは頭を下げた。


「世界は今まで何度も改変されてる。勘違いの可能性も十二分にあるぜ」


 肩をポンと叩かれて告げられたのは、予想外の回答。


 お茶を濁すのでも、間接的に非を認めるでもなく、勘違い。


 意識が書き換えられて、存在しない記憶が植え付けられた可能性。


「もし、そうだったら、俺はこれからどうしたらいいんだ……」


 颯爽と去るルーカスを眺めながら、ジェノはポツリと独り言をこぼした。

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