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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第19話 鬼門闘宴⑤

挿絵(By みてみん)




 闘宴の間。第二鬼門、九夏三伏きゅうかさんぷく。進行度35%。


 広がるのは、一面の砂漠。直上には、偽物の太陽。


 強い日差しに晒され、滝のような汗がダラダラと流れる。


「「「…………」」」


 メリッサたちの間には、無言の間が続く。


 誰も何も言わず、愚痴の一つもこぼさない状況。


 ただ淡々と、出たサイコロの目に応じて、進んでいる。


「あれこれ考えても仕方ありません。何か指標を定めてはどうですか?」


 そんな沈黙を破ったのは、アミだった。


 話題の争点は、ジェノが裏切るのかどうか。


 中立の立場として、建設的な意見を挟んでいた。


「……例えば、どんなのっすか」


 無視するわけにもいかず、メリッサは話に応じる。


 この気まずさを解消するには、きっと仮の答えが必要。


 間違っていたとしても、延々とモヤモヤするよりマシだった。


「私たちへの信頼を定量化したもの。終われば、明らかになるものです」


 返ってきたのは、答えに至るまでの過程。


 そこまで示されれば、馬鹿でも理解できる。


 ゲームのルールに則った、ある種のイベント。


「……100%の信頼。うちらの到達に、チップ全額を賭けたかどうか」


 チップは命そのもの。全て失えば、死に至る。


 そのリスクを承知の上で、全額賭けていれば本物。


 信頼の証明になって、裏切る可能性は限りなく0に近い。


「期待した分だけ損するよ。どうせ、結果は変わらナイね」


 これだ、と思った答えに、水を差すのは蓮妃。


 ドライで現実的で、自分の考えに確信を持っている。


 ソースは不明。性格か、人生観か、はたまた、意思の力か。


 いずれにしても、さっきまでなら精神が病んでしまいそうな言葉。


「結果を見るまでは分かんないっすよ。今は最善を尽くすまでっす!」


 ただ、短いやり取りの中で見えたのは、確かな希望。


 ある種、無敵のような状態で、次のマス目に足を運んだ。


 ◇◇◇

 

 闘宴の間。第四鬼門側、天井桟敷。


 観覧席には氷漬けの男が横たわっている。


 生きているか、死んでいるかも分からない状態。


「くっそ……。俺がもっと強ければ……」


 付き添うのは、同行者のベクター。 


 畳を力なく殴り、自分自身に怒りを向ける。


「…………」


 ジェノは、痛ましい姿を黙って見ていた。


 頭の中で思い描いていたものとは、違う展開。


「これで、気は晴れたのかい?」


 事情を知ってか知らずか、マルタは尋ねる。


 当たらずとも遠からずの、絶妙な質問だった。


「まだ分かりません。……この人を治せますか?」


 感情の整理がつかないまま、話を転がす。


 本心なのか、打算なのか、自分でも把握できない。


 一つだけ確実なのは、このまま見過ごせないってことだけ。


黒鋼こっこうを使えば、可能だよ。……ただし、こいつは残り一個だ。もし、この先で仲間の誰かが瀕死の重傷を負えば、泣きを見ることになる。それでもいいんだね?」


 問われるのは、今か、後かの二択。


 上階に行くほど、負傷のリスクも上がる。


 トラブルに備えるなら、残しておいた方がいい。


「構いません。やってください」


 それでもジェノは、即決即断する。

 

 上の階で何が起こるのか。答えは分からない。


 分からないもののために、人を見殺しにはできなかった。


「あいよ。……ちょっと離れててもらえるかい?」


 マルタは快く了承し、懐から黒い鉱石を取り出し、声をかけた。 


「待てよ……。第四王子に化けたお前を信じる気は……」


 一方で、ベクターは警戒感を強めている。


 彼とマルタは、王位継承戦で関わっていた。


 その時の不信感が今になって尾を引いている。


「聞こえてなかったとは言わせないよ。人の善意は素直に受け取っておきな」


 有無を言わせない勢い説き伏せ、マルタは畳に座り込む。


 それを分からないベクターじゃなく、無言で引き下がっていた。


(これで、いいんだよな……)


 一抹の不安を感じながらも、自分を正当化する。


 彼が起きてからが本番。話し合わないと見えてこない。


 自分の首を絞める可能性もあったけど、流れは止められない。


「天地開闢を遂げし、創世の主よ。我に力を与え給え」


 マルタは取り出した黒い鉱石に、呪文を唱える。


 すると、氷漬けのルーカスを白い光が包んでいった。


「――――うっ、俺っちは……」


 眩い光が消えると、ルーカスは目を覚ましていた。


 気を抜いたせいか、聞き覚えのある一人称を口にしていた。


 彼に言ってやることは決まってる。妹を組織に落とした主犯格の一人。


「おはようございます、ルーカスさん。……いや、フェンリル」

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