第18話 鬼門闘宴④
闘宴の間。第四鬼門、煙波縹渺。進行度99%。
そこは、夜空と水面の境界が交じる、幻想的な場所。
星々の輝きが辺りを照らす中、地面には水の波紋が走った。
次第に波紋は収まり、鏡のように映し出されるのは、銀色の義足。
「残すところは、ラスボスだけってか。楽勝だね」
その持ち主のルーカスは、軽やかな足並みで語る。
奥の方には赤いマス目。闘宴の間における最後の難関。
長いようで短く感じたゴールが、すぐそこまで見えていた。
「なぁ、そろそろ聞かせてくれ……。悪魔を手に入れた後、どうするのか……」
三歩ほど後ろから尋ねたのは、同行者のベクター。
短い赤髪に白スーツを着る、精悍な顔つきをした男性。
左肩に茶色のニワトリを乗せ、右腕に紺碧の腕輪をつける。
目的が見えてこない旅路に、痺れを切らしたってぇところだな。
命を救った恩は、ここらが限界。命を張るには理由が必要に見える。
「来るべき時に備えるためだ。我を押し通すには、力がまだ足りねぇだろ」
「もっと具体的に言ってくれ……。賭場が終わった後に、何を見据えてる……?」
端的に刺さりそうな言葉を落とすも、ベクターは納得しなかった。
話すつもりはなかったが、パフォーマンスを落とされたら本末転倒だ。
「深くは言えねぇが、近いうちに戦争が起きる。そうなりゃあ、あんたの母国もただじゃあ済まねぇ。王になることは諦めても、国への忠誠心は変わってねぇんだろ? 国家規模のワンマンアーミーが、是が非でも欲しいと思わねぇか?」
ルーカスは嘘偽りなく、計画の一部を語った。
返ってきたのは、沈黙。一人分の波紋が揺れるだけ。
(刺さんねぇか……。こっから先は、ソロで乗り切るしかねぇかもな)
返事を受け止め、振り返ることなく、前に進む。
前に進むにしろ、足を止めるにしろ、地獄が訪れる。
今を楽するか、後で楽するか。価値観の相違ってやつだ。
割り切って、最後のマス目を踏もうとした時、波紋が重なる。
「…………」
返事はなかったものの、二人の足並みは揃っていた。
◇◇◇
再び足並みは揃った。目指す方向は同じ。
どんな相手だろうが、負ける気がしなかった。
「無理だ……。降参する……」
だが、今回は相手が悪かった。
人間には分相応というものがある。
引き際を見極めなければ、死あるのみ。
要領を超えた相手に、ベクターは膝を折る。
『よかろう。ルーカス一行の進行度は八割。報酬はチップ五百枚とする』
悪魔のアナウンスが響き、近くには出口が現れた。
ベクターは対峙した敵に目を合わせることなく、去る。
その背中には、全身を凍結されたルーカスを背負っていた。