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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第17話 鬼門闘宴③

挿絵(By みてみん)




 サイコロを振る。敵が現れる。倒す。


 サイコロを振る。怪物が現れる。倒す。


 サイコロを振る。化け物が現れる。倒す。


 サイコロを振る。魑魅魍魎が現れる。倒す。


 それを、繰り返す。ただひたすら、繰り返す。


「…………まだ、まだっす!」


 頬に生じた傷は塞がり、糸と影が飛び交う。


 地面には翼を生やした兎が大量に転がっている。


 物質化された動物。第一鬼門に用意されていたボス。


 残すところ一匹。最後の翼兎よくとが空から降り、牙をむいた。


「こんなキメラ如きじゃ、うちは止められねぇんすよ!!」


 右手から糸を飛ばし、敵の身体を捉え、引き寄せる。


 左手には影を纏い、吸い込まれるように拳が叩き込まれた。


 ガキンと音が鳴り、翼兎の顔がわずかに欠け、ひびが入っている。


「この……このっ……このっっ!!!」


 生じた急所に目掛け、殴る。殴る。殴り続ける。


 ひびは次第に広がり、壊れた石像のように砕け散る。


 血は生じず、断末魔も上げず、生き物らしさは感じない。


 それに生理的嫌悪感を覚え、振り上げた拳は止まらなかった。


「やめるね。もう終わってるよ」


 何度目のことか、肩をポンと叩かれ、正気に戻る。


 止めてきたのは、心を乱される原因を作った、張本人。


「……蓮妃はいいっすよね。信じたい身内が誰もいなくて」


 八つ当たりと分かっていても、止められない。


 やり場のない憤りを、ぶつけずにはいられなかった。


「今のは言い過ぎね。言ってイイことと、悪いことがアルよ」


 顔色を変え、彼女はスーツの胸倉を掴んだ。


 地雷を踏んだ。こうなることは分かっていた。


 謝れば済む問題。非を認めたら場は丸く収まる。


「事実っすよね。あんたの全盛時代はとっくの昔に――」


 全部分かった上で、わざと地雷を踏みにいく。


 威圧感が増し、センスを纏っているのが分かる。


 最後まで言い切れば、仲間内のマジ切れが始まる。


 止まる気はなかった。むしろ望んでいるまであった。


 あの程度の敵じゃ、胸の内にある感情が消化できない。


「――――」


 その瀬戸際に生じたのは、無言の刃。


 二人に割って入るように、切っ先が向く。


 振るったのは、臥龍岡アミ。その続柄は――。


「なんのつもりっすか。……おばあちゃん」


 メリッサは実の祖母に視線を向ける。


 母親とそっくりの顔。年齢は二十代前半。


 ただ、彼女の作る表情は見たことがなかった。


 感情稀薄な母親では、出力できない感情を乗せる。


「争えば、得をするのは誰か。よく考えることですね……」


 理想論を並べ立てず、あくまで、現実的な言葉を使う。


 表情とは不釣り合いな内容に、思わず圧倒されてしまう。


 内に秘めた激情。きっと、深く語られることはない人生観。


「「…………」」


 その異様さが、二人の争いを辛うじて止めていた。


 ◇◇◇


 第一鬼門側、天井桟敷。最前列に配置されている観覧席。


 眼下では、メリッサたちの仲間割れが止まったところが見えた。


「…………」


 ジェノは、静かにそれを見つめる。


 昔なら、止めに入ろうとした気がした。


 感情に身を任せて、首を突っ込もうとした。


 でも、そういう気分には、どうしてもなれない。


 こうなることは分かっていた。行くまでもなかった。


「冷静だね。今のアンタは、一体どこを目指しているんだい」


 そこで問いかけてきたのは、隣にいるマルタだった。


 今のことよりも、もっと先に見ている景色を聞いていた。


「悲劇じゃなく、喜劇。そのためにも自分の感情と折り合いをつけるつもりです」


 詳細を語ることなく、端的に今の目的を告げる。


 それで納得したのか、マルタは何も言ってこなかった。

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