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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第16話 鬼門闘宴②

挿絵(By みてみん)




 闘宴の間。第一鬼門、柳緑花紅りゅうりょくかこう


 大門を抜けた先には、広大な草原が見える。


 足元には、マス目と巨大な六面ダイスが置かれていた。


「へぇ……鬼門って言う割には、過ごしやすそうじゃないっすか」


 真っ先に足を踏み入れ、感想を漏らしたのはメリッサだった。


 空気を吸い込めば、若葉の香りがして、心地いい風が吹き抜ける。


 天井からは日光が照りつけ、異国の草原に訪れたような風情があった。


「地下に太陽……。恐らく、条件付きの独創世界でしょうか」


 一方、風情を感じることなく、考察するのはアミ。


 意思の力の三系統。芸術系に該当する者が極めた先。


 心象風景の具現化。それが、独創世界と呼ばれている。


「意思の力が使えないうちでも、見えるもんなんすか?」


 反論することなく、抱いたのは単純な疑問。


 意思の力の知識は、有識者から一通り共有済み。


 ただ、経験に乏しく、力がないケースは分からない。


「芸術系はセンスの創造可変を得意とし、物質化にも長けます。見えない人にも見え、触れ、扱えるのが強みです。本物より強度が劣るのが弱みですが、条件をつければ、真に迫ることができる。その極みが独創世界ですね」


 知識から漏れた情報を、経験者のアミが補完していく。


 意思の力には興味ないものの、知的好奇心が少しだけ湧いた。


「見えない人も見える……。だったら、適性試験の地って……」


 頭の中に浮かぶのは、同じ地下空間に太陽が存在した場所。


 適性試験の地。犯罪者が集められていたマーレボルジェという町。


 設計に携わった母親から科学と聞かされたものの、嘘の可能性があった。 


「メリッサ、ちょっと話がある。少しイイか?」


 すると、同じ世界にいた蓮妃が真剣な顔で尋ねてくる。


 世界のタブーに触れる。不安と興味が混同する気配がした。

 

 ◇◇◇


 闘宴の間。第一鬼門、天井桟敷てんじょうさじき


 畳の上に座布団が置かれた、観覧席。


 円状に席が広がり、下には草原が見える。


 野球場の和風バージョンといった印象だった。


 最前列はガラス張り、近くにはパネルが置かれる。


 挑戦者の賭けが行われて、どこまで進めるかを賭ける。


「……これでよし、と」


 ジェノはブラックカードをかざして、パネルを操作。


 対象は、メリッサ一行の進行到達度がどこになるのか。


 一割、三割、五割、八割、到達の五つの項目から選べる。


 迷わず選んだのは到達。チップの99%の八十八枚を賭けた。


「上手い口実を見つけたね。内々に話したいことがあるんだろ」


 そこで声をかけてきたのは、マルタだった。


 色々と察してくれている。これなら話が早そうだ。


「ええ。メリッサについて、いくつか聞きたいことがあります」


 ◇◇◇


「ゲーム理論って知ってるか?」


 巨大なサイコロを持ちながら、蓮妃は尋ねる。


 思っていた内容とは、少し外れているような気がした。


「いや、残念ながら聞いたことないっすね」


 メリッサは記憶を探るも、それらしい言葉は出てこなかった。


 浅い知識で回答しそうになるも、もっと専門的な用語の気がした。


「ゲーム理論の基本は二面性ね。誰かを出し抜くまでは、全員の友であれ。相手が敵でも味方でも、イイ顔を続ける。自分の不利益には目をつぶり、周りの利益になる行動をする。自然と信頼関係が構築され、相手は言う事を聞く『駒』になる。『その時』が来れば切り捨て、自分だけがイイ思いをする。冷酷で合理的な勝つための手段よ」


 声色を落とす蓮妃は、いつもと様子が違う。


 今までになく真剣で、ふざけているように感じない。


「話が見えてこないっすね。つまり、何が言いたいんすか?」


 背筋がぶるっと震えながらも、話を掘り下げる。


 世界とは違う意味で、タブーに触れる感覚があった。


 正直、聞きたくない。でも、話を聞かずにはいられない。


 ――心当たりがあった。


 間違ってほしいと願いながら、蓮妃の回答を待つ。


 すると、彼女の視線は上を向き、観戦席にいた少年を見る。


「ジェノ・アンダーソン。彼は『その時』が来れば、裏切るよ。間違いなくね」


 そして、語ったのは恐れていた事実。


 嫌な心当たりが、現実味を帯びた瞬間だった。


 ◇◇◇


「メリッサの出自、ねぇ……」


 観覧席に腰かけ、マルタは真剣に考え込む。


 スロットでの一連の会話から、関係があるのは明らか。


 メリッサの出自と能力には謎が多く、ここで聞いておきたかった。

 

「言いづらいのは分かります。組織の上層部しか知らない秘匿情報なのかもしれません。……でも、この命賭けのゲームを攻略するためには、絶対に必要なんです。俺たちが一人も欠けないためにも、どうか教えてくれませんか?」


 ジェノは頭を下げ、思いを素直に伝えた。


 彼女は、マルタのことを代理者エージェントと呼んでいた。


 それは、組織『ブラックスワン』の役職の一つだ。


 潜入任務や諜報活動を主とする部隊。いわゆるスパイ。


 秘匿情報を部外者に話すなんて、タブー中のタブーだった。


「本来なら口が裂けても言えないが、アンタなら話してもいいかもね」


 しばし考え込んだ末、マルタは快い反応を見せた。


 身体に宿る神が目的か、個人として信じてくれたのか。


 どちらにしても、ありがたい。ここまで来た意味があった。


 メリッサの動向を知る。それが、目的の一つでもあったからだ。


「あの子は、あたいとフェンリルと臥龍岡ながおかミア博士の合作。英雄、聖遺物レリック、UMA、それらの遺伝子配列をいじり、優秀なDNAだけをゲノム編集して作られた、呪われし子供。特異体イレギュラーと呼ばれる個体の一人。彼女は、その中でもズバ抜けて優秀さ。意思の力を持たず、糸、影、再生、吸収、思念通話、五つの力を有している。元の素材から全ての能力を引き継いだ、人類最強のキメラさ。使ってない能力は未発達で、まだまだ未熟だけど、伸び代はアンタの比じゃないよ」


 淡々と語られるのは、耳を疑う内容だった。


 神を宿す身体と、タメを張るポテンシャルの持ち主。

 

 全て本当だったら納得がいくし、能力や出自にも辻褄が合う。


 ただ、語られた内容の中で、たった一つ、気に食わないことがあった。


「……フェンリルが、関係者?」


 聖遺物フェンリル。リーチェが使っていた武器であり、鎧。


 浅からぬ因縁がある相手の一人。関係者とは思いもしなかった。


「あぁ、今は体を乗り換えて……ルーカスと名乗ってるみたいだね」


 明かされたのは、思ってもいなかった事実。


 頭がパンクしそうになるも、やることは定まった。


「……なるほど。彼から少し、話を聞く必要があるみたいですね」


 ジェノはグッと拳を握り、静かに言い放つ。

 

 後ろ暗い感情を内に秘め、淡々と次を見据えていた。

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