第15話 鬼門闘宴①
ザ・ベネチアンマカオ地下63階。闘宴の間。
特急エレベーターで上がった先には二つの門。
左手には大門。右手には小門が設置されていた。
「帝国風の扉……恐らく、担当悪魔は袈裟を着た坊主っすね」
メリッサは顎に手を当て、考察を語る。
「え? なんで分かるの?」
横に並ぶジェノは、きょとんとした顔を作る。
鋭い時は鋭いものの、やっぱりどこか抜けている。
恐らく、脳内回路のオンオフを使い分けるような感じ。
今は確実にオフモードで、たまーにオンになる瞬間がある。
きっかけを掴めば使える。ただ今のところ、条件は不明だった。
「決戦! 屍天城!! の敵と、坊主の悪魔の見た目、同じだったっすよね」
考えていたことを頭の片隅に追いやり、要点を告げる。
詳細は分からないものの、帝国と因果関係があるのは明らか。
楓の繋がりと建物の構造から考えて、次の相手は坊主の確率が高い。
「あー、そっちの意味合いもあったのか。えっと、あの人の名前は確か……」
ポンと手を叩きつつ、ジェノは記憶をたどる。
『南光坊天海。それが我の名よ。その微小な海馬に刻んでおくがいい』
そこで聞こえてきたのは、本人の肉声。
一連のエピソードがなかったなら、普通の会話。
ただ、アレを経験した以上、ファンサービスになり得る。
「本物だ……。あの、応援してます……」
ユーザー目線のジェノは、天海の年季が入った声を堪能している。
何しろスロットの演出と声は同じ。声優の生演技を聞いた感覚に近い。
悪魔の身分で、真剣に声を当てている姿を想像すると、少し笑顔になれた。
『…………『鬼門闘宴』のルールを説明するが、構わんな?』
天海は押し黙り、ゲームの進行を始めている。
満更でもない反応。声優をやったのはガチっぽい。
「……こっちは問題ないっす」
後ろを振り返り、四人の意思確認をして、話を進める。
本命はこっち。ファンサービスがどうとかは、余談だった。
『左の大門を選べば挑戦者となり、賽を振って、出た数の分だけ移動し、目標地点到達を目指す。その実績に応じて、チップを与えるが、相応の苦行が伴う。右の小門を選べば観戦者となり、挑戦者の進行度を予想し、賭ける。チップが発生するのは賭けの当落のみで、苦行は少ない。このどちらかを選んでもらう』
天海が語るのは、シンプルな内容。
現代の知識で考えれば、一言で表せた。
「ようは、『リアルすごろく』っすよね。それなら、挑戦者一択っす!」
観戦者になる発想はなく、挑戦者目線で反応する。
リスクや不安はあるものの、ワクワクの方が上回る。
早くゲームをやりたくて、ウズウズしてる自分がいた。
「いや、俺は二手に分かれた方がいいと思う。全員、挑戦者は危ない気がする」
慎重派のジェノは、反対意見を述べてくる。
「それもそうっすね……。四対一。いや、三対二ぐらいの配分がいいかもっす」
その案に賛同する形で、メリッサは話を転がした。
今後を考えれば、チップは出来るだけ多く稼いでおきたい。
それなら、挑戦者多めは必須で、観戦者を一人にすれば危険も伴う。
だから、三対二が安定と見た。リスクを分散し、どちらにも融通が利く人数。
「だったら今回、あたいは楽させてもらうよ。文句はないだろ?」
二択を前にして、真っ先に反応したのは、マルタだった。
戦力としては最高クラス。抜けられるのは正直言って痛い。
ただ、前回の活躍を考えれば、反対する気にはなれなかった。
「ノーとは言えないっすね。……もう一人、観戦希望の者はいるっすか?」
次に視線を向けるのは、アミ、蓮妃、ジェノの三人。
この中に優劣はなく、全員信頼できるし、誰が抜けても痛い。
「二人がいいなら、抜けてもいいかな。少し俯瞰して考えたいことがあるんだ」
遠慮気味に声を上げたのは、ジェノだった。
何か引っかかりがあったからこそ、発案したはず。
だからこそ、観戦者に回るのは、自然な役回りに思えた。
「我は問題ないよ」
「私もそれで問題ありません」
蓮妃とアミは、同意し、メンバーの振り分けが完了する。
「うっし。だったら、うちらは左。そっちは右っすね。出口でまた会おうっす!」
メリッサは責任者として音頭を取り、大門に手をかけていく。
そうして、互いに納得した上で、第三のゲーム『鬼門闘宴』が始まった。