表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
148/156

第148話 神に歯向かう理由②

挿絵(By みてみん)




 白教は世界最大の宗教団体。信徒の数は世界人口の半分。


 世界各地に礼拝用の聖堂が存在し、マカオ内にも当然あった。


 誰かに勧められたわけでもなく、休日に行われる礼拝に参加した。


 信者以外を拒むようなことはなく、簡単に中へ潜入することができた。

 

(これが白教。カルトかと思ってたが、中は思ってたより普通だナ……)


 白一色に染まる礼拝堂内に、蓮麗は足を踏み入れる。


 等間隔に並ぶ長椅子には、信徒で埋まる。服装は白のみ。


 それは当然把握済みで、白のワンピースドレスを着ていった。


 もちろん、身元がバレないよう、黒のサングラスをかけていった。


「「「…………」」」


 すると、入った瞬間から、白い目で見られるのが分かる。


 気に入らないことがあるものの、直接言ってこない人の目線。


 致命的なミスではないものの、何かやらかしたのは一目で分かる。


(コイツのせいカ……?)


 当時から察しは良く、すぐに当たりをつけ、黒のサングラスを外した。


 当たっているにせよ、外れているにせよ、反応でABチェックは可能とみた。


「「「―――――」」」


 信徒たちは何も言う事はなく、前を向いた。


 反応からして、今のが正解だったことを意味している。


(ワンポイントでも駄目カ。眼が見えなかったら、どうするつもりだ?)


 内心イライラしつつ、空いている席に腰をかける。


 座ったのは、一番後方の座席。これ以上は目立てない。


 周囲の顔色を伺っていると、祭壇には『あの人』が現れた。


 赤く角ばった帽子を被り、見覚えのある白い司祭服に袖を通す。


 何か語ることはなく、その背後には十数人の修道女が続々と並んだ。


(あー、どうせ、欠伸あくびが出そうな教えを聞く時間の始まり……)


 げんなりとした表情で、蓮麗は眺める。


 期待値は底割れしていたところで、それは起きた。


「――――」


 聞こえてきたのは、聖歌と思わしき『何か』。


 ゴスペル風の力強い音色が、身体の奥底を揺らす。


 気付けば、リズムに乗り、口ずさむほどに聞き入った。


 教えも背景も全く知らず、白教に心を掴まれた瞬間だった。


 ◇◇◇


 礼拝後に訪れたのは、インターネットカフェ。


 白教に興味を持ち、色々と調べてみることにした。


 ブラウザから検索をかけ、それっぽい記事を見つける。


(……白教内における序列。位階制度)


 ズラッと並べられているのは、言ってしまえば、ランキング。


 上位であるほど偉く、下位であるほど下っ端の一般的な組織体系。


 政治や株式会社まで幅広く使われる階級を、宗教的に言い換えたもの。


Ⅰ.教皇


Ⅱ.枢機卿


Ⅲ.大司教


Ⅳ.司教


Ⅴ.司祭


Ⅵ.助祭


 役割や権限は目に入らず、気になったところは別にある。


 ザッと読み飛ばしつつ、今、欲する情報だけに焦点を絞った。


(……あったネ)


 目に留まったのは、各位階の外見的特徴の違い。


 普通の人なら、気にも留めない場所に興味関心があった。


(『あの人』の階級は――)


 母と再婚した相手が、どの程度のランクなのか。


 どうせ下の方だと思いつつ、文字を流し見していく。


 すると、手が止まる。想定していたより早く見つかった。


 特徴はワンポイントの赤。ビレッタ帽という帽子の色の違い。


 大学の学位授与式などで使われるものと、類似しているデザイン。


 『あの人』が被っていた帽子の色を考慮すれば、階級が確定してしまう。


「枢機卿……。アイツが白教のナンバー2……?」


 想定外の情報を前に、思ったことが口に出る。


 家で調べなくて良かったと、心の底から安堵した。


 仕切りなしでパソコンが並んでるけど、過疎っている。


 客はいなかったし、店員に聞かれても困ることはなかった。


「少し、外で話をできますか? 蓮麗さん」


 そう思っていた時、肩をポンと叩かれ、耳元で囁かれる。


 ビクリと肩が揺れ、悲鳴が漏れそうになりつつも、必死で堪えた。


「……分かったヨ。その代わり、ここは奢ってもらうからナ」


 怯えたところを見せたら、舐められる。


 その思いだけで恐怖心を抑え、堂々と席を立った。


 ◇◇◇


 マカオ中区にあるセナド広場と呼ばれる場所。


 中央の噴水が特徴で、辺りには商業施設がひしめく。


 休日の昼過ぎということもあり、大勢の人が闊歩していた。


 嫌でも人目につき、ここなら白昼堂々と口封じはされないだろう。


「……で、我に何の用カ?」


 噴水近くの段差に腰かけ、蓮麗は話を促した。

 

 この呼び出しが良いか悪いかは、内容次第で変わる。

 

 変につっかかるより、用を聞くのが一番手っ取り早かった。


「今日の礼拝に来ていましたね。催しは如何でしたか?」


 『あの人』は立ったまま、本題を切り出した。


 内容は至って普通。礼拝を見られていただけのこと。


 サングラスを外した時点で、バレる可能性は頭の中にあった。


「……悪くはなかったヨ」


 ひとまず話に乗って、蓮麗は様子を見る。


 ここまでは牽制。ここからが本命に決まってる。

 

「そう、ですか」


 歯切りの悪い反応を見せ、会話は途切れる。


 口下手なのも、話し方に個性がないのも知ってる。


 ただ、それにしても――。


「話はそれだけカ? 他に聞きたいことがあるんじゃないのカ?」


 言わなくていいことを蓮麗は口に出す。


 ネカフェのことは、知られたと思っていい。


 その上でスルーされるのは、気持ちが悪かった。


「いえ、特にありません。話はそれだけです」


 思いに反し、『あの人』は去ろうとする。


 興味が全くないのか、興味を引かせたいのか。


 ここまで感情が読み取れない人は会ったことがない。


「あぁ、言いたいことがあるならハッキリ言え! 一応は、家族だろ!」


 不利になると分かりつつ、蓮麗は声を荒げた。


 他人のような仰々しい態度に、腹が立ってしまう。


 相手がどんな立場であろうと、戸籍上は、父親になる。


 認めるのは癪だったが、状況的には認めざるを得なかった。


「……だったら、無礼講で話そうか。君だけに伝えておきたいことがある」


 足を止め、声のトーンを変えて、『あの人』は言った。


 初めて腹を割って話してくれそうな空気を醸し出している。


「…………」


 蓮麗は黙したまま、こくりと頷いた。


 何を言われるかは、全くもって想像できない。


 期待半分、不安半分の気持ちで続く言葉を待ち詫びる。


「母さんは近いうちに、神の生贄に捧げられる。別れを済ませておきなさい」


 語られたのは、吐き気を催してしまうほどの邪悪。


 それが、家を出た理由。それが、詠春拳を覚えた理由。


 魔神と契約し、寿命を削ってでも神に歯向かう理由だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ