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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
147/156

第147話 神に歯向かう理由①

挿絵(By みてみん)




 生まれ育ったのは、マカオ中区の古びたアパートだった。


 物心がついた頃には父親はおらず、家族は母親が一人だけ。


 頼れる親戚はおらず、いわゆる、母子家庭というやつだった。


「今日も留守番よろしくねぇ」


 アパートの狭い玄関前、母は流麗な中国語で語る。


 服装は、薔薇のレースが入った、黒のミニワンピース。


 黒のヒールのつま先をコンと叩き、黒髪を夜風に靡かせた。


 ――仕事はスナックのママ。


 夜型の人間で、休日という概念はない。


 日々、何かに追われるように出かけていく。


 生きていくためにはお金が必要で、うちは貧乏。


 働かなければ、生活は困窮し、明日を生きられない。


 不平不満は特になく、「いってらー」と母の背中を見送る。


 ――家族関係は良好だった。


 母に理解を示し、テレビを友とし、十代を過ごす。


 何も考えずに、恋愛ドラマを見る日常も悪くなかった。


 このまま何事もなく働いて、結婚して、子育てして、死ぬ。


 頭の中で平凡な将来設計を描き、その通りになると思っていた。


 ――『あの人』が来るまでは。


「この人と結婚することになったから。粗相のないようにね」


 母の紹介で玄関に現れたのは、白い司祭服を着た黒髪の男性。


 容姿は四十代ぐらいで、頬は痩せ、表情に生気はなく、目は虚ろ。


 言葉を選ばなかったら、末期の薬物中毒者のような見た目をしていた。


「…………」


 本音を言えば嫌だったけど、口にはできなかった。


 『あの人』のことは何も知らない。容姿で人を判断できない。


 言いたいことを全部呑み込んで、こくりと頷き、同居人が一人増えた。


 ――この日を境に、母は少しずつおかしくなった。


 時は流れて、小学六年生。12歳になったばかりのころ。

 

 時刻は夕方。珍しく早起きした母は、手料理を振る舞った。


 三人前の炒飯とモヤシ炒め。食卓には、母と『あの人』が座る。


 あれから白を基調とした家具や服が増え、日常は白に染まっていた。


「アンタに何が分かんのよ! 親に食わせてもらってる分際で!」


 パシリと音が鳴り、頬に痛みが走る。


 その日、母から初めて暴力を振るわれた。


 何で言い争っていたかは、正直覚えていない。


 ただ、親に殴られたという事実だけが頭に残った。


「…………」


 その後、弁明も謝罪もしなかった。


 母の心は、何かが原因で壊れかけている。


 結果を受け止めて、そういうものだと理解した。


「その目……人を下に見るような、その目が気に食わないのよ!」


 暴力はエスカレートして、母はボールペンに手を伸ばした。

 

 目を突き刺せば、きっと我に返る。そう考えながら、傍観する。


 抵抗することなくペン先は迫り、そのまま目をえぐろうとしていた。


「――それ以上は、いけない。白教の教えに背きます」


 止めたのは、意外にも母の再婚相手の『あの人』だった。


 それがきっかけで、白教という宗教に興味を持つようになった。

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