第144話 熱い夜
溶ける、混ざる、交じり合う。
意識と武術とセンスは互いに同調する。
螳螂手と八斬刀が交差する中、広がるのは記憶。
(弱みを握ってやる。見せてみろ、お前の秘密を……っ!!!)
蓮麗は成功を確信し、両目に意識を集中させる。
天眼視心。眼で見た相手の秘密を一つだけ知る能力。
クールタイムは24時間。それを無視する強硬手段に出た。
それは、精神防御を解き、玉鏡星の認識阻害を利用すること。
認識が変われば、クールタイムを受けるのは『シェン』と読んだ。
その結果、見えたものは――。
(火、事…………)
焼ける屋敷の映像が、第三者視点で脳内に流れ込んでくる。
周囲は樹々に囲まれ、遠くの方には見覚えのあるビル群が見えた。
――舞台は中国じゃなく、アメリカ。
詳しい地名は分からないものの、火事が起きているのは明らか。
火の勢いはとどまることを知らず、屋敷をことごとく焼き尽くした。
『………』
そこから出てきたのは、漆黒の鎧だった。
その両手には、白と黒の二丁拳銃を持っている。
恐らく、火事を起こした犯人。鎧の方は聖遺物の能力。
(こいつとシェンに、なんの因果関係が……)
映像からは全く見当がつかず、景色を眺め続ける。
すると、漆黒の鎧の正面には、複数の人影が見えていた。
『いい度胸ね。私から得物を奪った挙句、濡れ衣を着せるなんて』
一人は長い銀髪に、尖った耳、黒のロングコートを着た少女。
両腕には、黒スーツを着た長い青髪の少女を大事そうに抱えている。
『『――――』』
その両隣に並ぶのは、十代後半の男女だった。
男は短い黒髪に褐色の肌で、身長は高めで筋肉質。
白のタンクトップと、紺のジーンズを着こなしている。
女は赤髪ツインテールで吊り目、黒基調のメイド服を着る。
互いに語ることはないものの、センスを纏い、臨戦態勢に入る。
――そして。
『その化けの皮、剥がせてもらおうかぁ。滅葬志士棟梁の名にかけて』
腰に備わる日本刀を抜き、青の軍服に身を包むのは、中年の男。
短い黒髪を逆立てており、発言と特徴からして、唯一知っている人物。
冥戯黙示録の参加者であり、メリッサに敗北宣言した、化け物退治の専門家。
――千葉一鉄。
残っている人物は一人しかおらず、消去法で答えが絞られる。
現れた四人の因縁が向いた先。漆黒の鎧の中身は、まず間違いなく。
(シェン・リー。これが、隠し通したい秘密……)
理解が及んだところで、映像が乱れる。
短い回想の終わり。技の衝突から死闘は始まる。