表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
139/156

第139話 因縁の対決

挿絵(By みてみん)




 鳥かごのように形成される黒い金網。特製の武舞台。


 メリッサから託された意思を背負って、蓮麗は前に進む。


 黒スーツの襟を正し、眦を決した先には、少年が立っていた。


 容姿は十代前半。白の辮髪で、黒の男性用チャイナ服に袖を通す。


 出身地は恐らく、中国本土。特別行政区の外側にいる、本物の中国人。


 それだけでも因縁があったものの、他にも決定的な類似点が存在していた。


「出場条件は満たしてる。慈悲深い神の化身なら、文句は言わないナ?」


「無論、構わんよ。因縁深い魔神の契約者であろうと、平等に接してやろう」


 魔神の契約者と神の化身。奇しくも揃うのは、表裏一体の存在。


 月と太陽のように、別の事柄でありながら、密接な関係を持っている。


(対白き神では不覚を取った。だけど、今度は――)


 拳を握り、蓮麗は臨戦態勢に入る。


 敵の力量と能力は、おおよそ把握済み。


 そのための対抗策も当然ながら考えていた。


「――無極具象むきょくぐしょう


 虚空に右手をかざし、蓮麗はセンスを集中させる。


 得意とするのは感覚系。人の精神に干渉できる力を操る。


 精通している武術は詠春拳。一呼吸で敵を倒し切る連打が特徴。


 ――現れたのは、どちらにも該当しない代物。


 蓮麗が掴んだのは、何の変哲もない木の棒だった。


 長さは約二メートル。形状はシンプルで、装飾はない。


 それは、センスによる物質の創造可変。芸術系寄りの能力。


 感覚系の苦手分野であり、本職に比べれば、60%の精度が限界。


 『寿命を捧げる』などの特殊条件がなければ、凝ったものは作れない。


 なぜそうまでして、木の棒を生成したか。理由は、詠春拳の教えにあった。


「六点半棍。あくまで不殺が目的と見える。吾は八斬刀の方が好みなのだがな」


 中国武術に精通するシェンは、一目で意図を察する。


 詠春拳は、『拳』『刀』『棍』を存分に扱え、一人前とされる。


 普通の武術だと言葉通りの意味。ただ、センスあり気だと話が変わる。


 ――いつ如何なる時も自由に扱えて、一人前。


 『拳』は言うまでもなく、体術全般のことを指す。


 『刀』と『棍』は武器あり気。持ってないと始まらない。


 そのため、武器を生成できる『無極具象』の習得は必須だった。


 得意か苦手かは関係ない。詠春拳を習う以上、拒否権は存在しなかった。


「見かけによらず、おしゃべりネ。お前は、噺家はなしかの神か?」


 蓮麗は棍を回し、手に馴染ませながら、雑談に興じる。


 さっきからペラペラと手の内を喋るし、サービスが良過ぎる。


 徳を積めば、センスが増える能力の影響だろうが、どうも鼻につく。


「闘争だけの世界では動物と同じ。規律を守り、おどけてこその人間よ」


 対するシェンの回答は、かなり人間に寄っていた。


 神か、依代か。どちらの人格による発言なのかは不明。


 天眼視心を使えば分かるだろうけど、今はクールダウン中。


 24時間経てば使えるけど、前回の使用から数時間も経ってない。


 この試合内での使用は、まず無理。センスから読める情報も、皆無。


 相手が格上だと感覚系は機能しないから、自力でどうにかするしかない。


「その理屈が通用するのは勝者だけ。負けてから後悔させてやるヨ!!」


 蓮麗は棍を握りしめ、神の化身に勇猛果敢に挑戦した。


 これが『火』を捧げた、せめてもの罪滅ぼしになると信じて。


 ◇◇◇


 鋼絲牢翳の金網外には、二人の男女がいた。


 中で行われているデスマッチを金網越しに見守る。


「どうして、蓮麗に行かせた。アイツとは初対面のはずだろ?」


 そこで問いかけてくるのは、アフリカ系の男性マイクだった。


 見ず知らずの相手に命運を託したことに疑問を持っているらしい。


「白き神対蓮麗を遠くで見てたんすよ。彼女なら、うちに出来ないことが出来る」


 メリッサは、真実を包み隠し、事実を伝える。


 悪魔界のことに関して、言うつもりは一切なかった。


 言えば余計な混乱を生むだけで、プラスに働くことはない。


 ここは適当にお茶を濁して、見守るのがベストだと判断していた。


「あー、それなら納得だ。むしろ、アイツ以外には勝てないかもな」


 諸々の事情を込々で、マイクは首を何度も縦に振った。


 押して駄目なら、引いてみろ。それが上手く噛み合った形。


 勝てるかどうかはともかくとして、事前情報では有効に思えた。


「――ただ、負けた場合はどうするよ」


 その上で切り出されたのは、最悪のパターンだった。

 

 こちらの切り札が敗北し、デスマッチが終わった時のこと。


 神の化身が勝てば、参加者していた全員の命令権は総取りされる。


 ――悪用されれば、かなりまずい。


 正直、シェンに関しては知らないことが多すぎる。


 知っているのは、中国マフィアのボスという情報だけ。 


 目的によっては、戦術兵器として使われる可能性もあった。


「……今は信じてあげるだけっす、蓮麗が勝ってくれることを」

 

 色々と不安が頭を巡りながらも、考えないようにした。


 仲間を信じる。ジェノがくれた感情を穢したくはなかったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ