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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
136/156

第136話 化け物か人間か

挿絵(By みてみん)




 役者は出揃った。手の内はおおよそ把握した。


 メリッサは遠距離、マイクは近距離と役割を分担する。


 距離を詰めれば、霧状の拳。離れれば、紫炎の弾が飛んでくる。


 ――シンプルながら、非常に厄介。


 戦い方を限定することで、余計な思考を割かずに済む。


 前にしか進めない歩兵でも、砲兵と連携すれば強力になるのと同じ。


(二対一でもやれんことはないが……)


 シェンは混じり込んだ変数を計算に入れ、構成を練り直す。


 その間にも時間は過ぎていき、視界の大部分が紫色に染まっていく。

 

「どうしたんすか? そのままじゃ、ジリ貧っすよ!!!」


 頬を軽く焼いたのは、メリッサが放つ紫炎の弾だった。


 一発一発が必殺級の威力。まともに食らえば、まぁ助からん。


 普通なら燃費が相当悪く、ガス欠を待つのが鉄板の戦法だと言える。


 だがどういうわけか、勢いが一向に衰えん。センスが減る気配が全くない。


(真正面から付き合えば、身が持たん。だとすれば――)


 紙一重で紫炎を躱し続け、命を繋ぎ、思考を巡らせる。


 手の内とも相談し、選べる手段の中から取捨選択していく。


「正しいと思った方を助ける。そうお前さんは言ったな」


 シェンは回避に没頭し、空いたリソースで虚空に問いかける。


 選んだのは、全力で戦うことではなく、全力で二対一を崩すこと。


 これが現状において、最も合理的で、最も効率的なものだと判断した。


 無視される可能性もあるが、行動方針に関わる問題。十中八九、食いつく。


「……だから、なんだってんだ?」


 案の定、虚空から聞こえたのは、霧化中のマイクの声。


 交渉できる土俵に立てたことを意味し、残すは内容の問題。


 彼奴きゃつが寝ている間に聞き漏らしていたことを、われは知っている。


「最終的に『日常』が手に入るなら、多少の犠牲は厭わない。この化け物は、そう言った。勝利を収めた先にあるのは、戦争。『非日常』が当たり前の世界が訪れる。果たしてそれは、『正しいこと』だと胸を張って言えるのか?」


 これは、まず間違いなく、マイクの根底を揺るがすもの。


 見方が変われば、善悪など簡単に揺らぐ。今がその時だった。


(さぁどうする、正義の味方。霧が晴れた後の地平の先に、一体何を見る)


 シェンは静かに待ち侘びる。


 マイクが反転して味方になる瞬間。


 そうなれば、労せずして、戦況は変わる。


 孤独になった化け物を追い詰める展開が訪れる。


「言えるね。少なくとも、『今』は俺の方が正しい」


 しかし、霧状の拳と共に返ってきたのは、望まない回答。


 シェンは後方に宙返りしながら、間一髪のところで回避する。


「……とても正気とは思えんな。何を基準に正しいと論じる」


 その最中、消えゆくマイクに問いかける。


 一度やんわり断られた程度で、諦めるわけがない。


 交渉は未だ継続中。根っこを紐解けば、懐柔するのは容易い。


「人間性ってのは、言葉じゃなく、行動に滲み出る。殺すと言って立ち止まれるヤツと、殺すと言って立ち止まれなかったヤツの間には、大きな隔たりがある。仮にコイツが化け物だとしても、『今』見た限りでは、立ち止まれる側の人間だ」


 襲い来る紫炎弾を背景に、虚空から語られるのはマイクの主義主張。


 正しいかどうかはさておき、彼奴なりの論理が破綻することなく展開している。


(決裂か……。これ以上は時間の無駄と見える)


 労せずして、味方を増やす策は、失敗に終わった。


 残すのは面倒な選択。二対一の状況を覆すための労働。


 楽な選択肢を選べなかった以上、重い腰を上げざるを得ない。


(やれやれ。年甲斐のないことはしたくないのだがな……)


 眼前には、紫炎弾が迫り、肌を焼こうとしている。


 センスで守らなければ、死は免れないほどの火力と見える。


 そこに自ら手を突っ込み、確かな温もりを感じ、静かに言い放った。


「七星螳螂拳――【輝巨星】」

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