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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
135/156

第135話 善か悪か

挿絵(By みてみん)




 ザ・ベネチアンマカオには、独自の情報網がある。


 Googleのネットワークを利用した、個人情報の掌握だ。


 高額ベットのお客が現れた際、身辺調査の目的で利用する。


 ――メリッサも例外ではなかった。


 バカラで張ったチップの額は、5000万ユーロ相当。


 負ければ言うまでもなく、カジノ側は大きな痛手を負う。


 利益のことだけを考えれば、イカサマで勝つのは正攻法だった。


 ――ただそれは、金持ちだと割れた場合に限る。


 具体例を挙げるなら、大富豪、大地主、大豪商がそれにあたる。


 大金を失ってもすぐに取り戻せる連中だ。負けても笑い話で終わる。


 その場合は、容赦なく毟り取るだけだが、ごくまれに外れ値が存在する。


『身元不明。偽造パスポートで入国した記録以外のデータが存在しないネ』


 データの照合を行ったのは、蓮麗だった。


 ヘマをやらかす真似はしない。仕事はできる女だ。


 信頼はしているし、Googleの情報網にも疑いを持ってない。


 世界中のあらゆる諜報機関よりも、情報収集力は上だと思っている。


 ――しかし、導き出された答えは『身元不明』。


 唯一分かったのは、偽造パスポートを使ったことだけ。


 こんな相手は初めてだった。善か悪かも分からない透明人間だ。


 情状酌量の余地があれば、喜んで勝たせてやるが、当時は非常に悩んだ。


 ――その結果。


『……コングラッチュレーション。このチップは全部アンタの物だ』

 

 『身元不明の女』を泳がすことにした。


 見てくれや直感を理由に、信用したわけじゃない。


 化けの皮を剥がしてやるのが、冥戯黙示録に参加した目的だった。

 

 ◇◇◇


 人の醜い本性は、日常ではなく、非日常で炙り出される。


 金があり、生活が安定してるヤツは、滅多に本性を見せない。


 ――精神的な余裕があるせいだ。


 そのメッキを剥がしてやるには、一度、地獄に叩き落とす必要がある。


 そういう意味だと、冥戯黙示録は、性格を見抜くための恰好の舞台と言えた。


『オールインっす。破産覚悟の勝負に乗りたい馬鹿はいるっすか!』


 悪魔チンチロでは、カジノの時と同じような性格が伺えた。


 馬鹿と天才は紙一重と言うが、完全に頭のネジが外れている類。


 とは言っても、初対面の延長線上。イメージが変わることなかった。


 実力や手の内を見せることもなく、仲間が割って入って勝負は終わった。


『ビタ押しのベルナビ……。やってくれたっすね!!!』


 戦獄コレクション2でも、大した活躍はなかった。


 ゲームマスターが用意した罠にまんまとハマっただけ。


 結局、自力で解決できず、またもや仲間を頼って突破した。


『人間は成長する。あの頃とは、住んでる世界ステージが違うんすよ』


 鬼門闘宴では、ようやく実力と手の内が垣間見えた。


 糸と影を操る能力。仲間を一人やられ、本領を発揮した。


 ただ、仲間思いなのか、生き残るためにやったのかは不明だ。


 ここで断定するのは早い。もう少し様子を見てやる必要があった。


『中にプレイヤーがいたらどうするんすか。助ける一択っすよ!』


 自由の街(アガルタ)では、崩れた尖塔からNPCを助けていた。


 その理由は、プレイヤーがいる可能性を考慮してだった。

 

 普通なら必要のない工程。生き残るためなら、絶対にやらない。


 第一印象の時と比べるなら、彼女の印象は大きく変わろうとしていた。


 そして、バトルフラッグでは――。


『よぉ、善玉。ぼーっとしてないで、卑劣漢を倒すのを手伝え』


『……やれやれ、仕方ないっすね。主人公の足引っ張んなっすよ。名脇役!!!』

 

 ◇◇◇


 心強い仲間が加わった。悪魔界で聞く限り、名前はマイク。


 黒スーツを着たアフリカ系の男性。元々は、カジノのディーラー。


 優れた肉体を持っているものの、能力は不明。まだ底は割れていなかった。


「名脇役ときたか……。期待には応えてやらんとな!!!」


 力強い台詞とは裏腹に、マイクの姿が消えていく。


 透明になったというより、空気に溶け込んでいった感覚。


(敵の前で能力は明かせない。そんで、懐中電灯には近付けない。だったら――)


 状況を整理し、メリッサは展開を前向きに受け止める。


 マイクに敵意はない。姿を消せるということが分かれば、十分。


 使える容量が少ないからこそ、思考シンプルにまとめ、やることを定める。


「――――」


 メリッサが右手から放つのは、紫炎弾。


 接近戦は不利だと見越し、遠距離戦に徹した。


 自ら作り出した金網デスマッチの端ギリギリで戦う。


「甘いわっっ」


 当然、シェンは炎弾を躱し、距離を詰めてくる。


 手には一撃必殺の懐中電灯を持ち、振るおうとしている。


(うちの読みなら、恐らく……)


 受けに回るメリッサは、あえて何もしなかった。


 この後に起こる展開は、ある程度の予想がついている。


「そっちもな!!!」


 シェンの死角をつくように、後方にはマイクが現れている。


 モヤがかかったような右手の拳を握り、力のままに振るっていた。


「……ちっ!!!」


 すんでのところで、シェンは回避を選択。


 攻撃を中断せざるを得ず、再び距離を取っている。


 勝負は平行線のままだけど、ふと抱いていた疑問が解けた。


(なるほど……。能力は『霧』っすね。実体を霧状にして、金網に入り込んだ)


 金網の中には、関係のない人を除外していた。


 身体を霧化できるなら、乱入できた理由に納得がいく。 


 しかも、シェンの接近戦を封じるには、十分すぎる性能だった。


「まさかとは思うっすけど、二対一が卑怯だなんて言わないっすよね?」


 圧倒的に有利な立場になり、メリッサは上から目線で告げる。


 勝敗が決するのは時間の問題。遠距離攻撃に徹するだけで勝てる。


「小童が一人増えたところで変わらんよ。ええからかかってこんかい……」


 シェンの余裕は揺らぐことなく、強気に答える。


 ただの強がりか、それとも、捌き切る自信があるのか。

 

 どちらにしても、勝負の命運は、シェンの能力が握っている。

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