表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
132/156

第132話 潜めし者

挿絵(By みてみん)




 傷ついた身体から、煙が上がる。


 傷口が塞がり、全身に血液が循環する。


 体調は万全。戦う前よりも好調とさえ思える。


 だけど、元に戻らないものが一つだけ存在していた。


「へぇ……そういう仕様なんすね」


 視界の左半分には、薄いモヤがかかっている。


 動いている感触はあるものの、機能を果たしていない。


「再生阻害中に受けた傷は再生しない。怨むなら私を怨め」


 杖刀の鞘を支えに、立ち上がる一鉄は言った。


 両腕と右足に火傷を負いつつ、命に別状はない様子。


 業火を受け、あの程度で済んだのは、流石としか言えない。


「怨まないっすよ。これも因果応報ってやつっす。それより……」


 頭の片隅には、左目を封じた緋色髪の女性が浮かぶ。


 巡り巡った因果を受け止め、残った右目で辺りを見渡した。


・停止→マクシス。


・生存→メリッサ、一鉄。


・死亡→閻衆、アサド。


・気絶→ヘケト、ルーカス、蓮麗、マイク、ベクター。


・失踪→ジェノ、広島、バグジー、アザミ。


 ざっと頭の中で事実を並べ、状況を整理する。


 見聞きした大半は揃ったものの、不揃いなピースがある。


「あと一人、役者の出番が足りない。そうだな?」


 諸々の事情を知っているのか、横に並ぶ一鉄は問いかける。


 向いている方向は、黒牢翳で囲われている地下トンネルの水路。


 その先は行き止まり。格子状の柵が付いた配管だけが存在している。


 天井に灯る電球の光が届かない領域。色濃い影に包まれているスポット。


「ご名答っす。そろそろ出てきたらどうっすか。……性悪じじい」


 全てを見ていたメリッサは、確信をもって告げる。


 いるのは確実で、敵になるか味方になるかは、相手次第。


 反応を待っていると、パッと丸い光が水路側から照りつけてきた。


「やれやれ、ようやっと出番か。待ちくたびれたわい」


 呆れるような声音が響くと、水しぶきが上がる。


 気付けば、すぐ目の前から丸い光が照り付けている。


 懐中電灯と思わしき光が消え、その姿が明らかになった。


 黒い辮髪、黒いチャイナ服、痩せ型で、低身長の老いた男性。


 首の骨を鳴らし、屈伸運動をして、鋭い目線を向け、口を開いた。


「……旗を無条件で渡し、投了するなら見逃してもいいが、どうする若人」


 身を潜めていたシェンは、堂々と交渉を持ちかける。


 アサドが始めたデスマッチは、まだ終わっていなかった。


 気絶、死亡、停止、失踪は除外されたとしても、生存者は別。


 降参の前後で変化がないし、勝負が続いているのは明らかだった。


(冥戯黙示録とデスマッチ。両方を盗りにきてるっすね。漁夫の利ってやつっすか)


 シェンの目に見えた思惑を察し、頭を巡らせる。


 交渉を持ちかけられた時点で、取れる選択肢は限られる。


 ――応じるか、応じないか。


 要求を呑むなら、揉めずに話は終わり。


 要求を否定するなら、争いごとに発展する。

 

「私は敗北を認めた身だ。この場の判断は、勝者のメリッサに一任する」


 アレコレ考えていると、一鉄は話を転がした。


 理屈は通っているものの、丸投げと言ってもいい。


 助言を求めるのも手だけど、それだと恰好がつかない。


「うちは……」


 大して頭も回さずに、口を動かした。


 悪魔化した自分が立てた作戦は崩れている。


 アサドが仲間に入らなかった時点で、外れている。


 だとすれば、どうするべきか。何を選ぶのが正しいのか。


 己の欲求に従って、捻り出された答えは、頭の悪いものだった。


「うちはあんたと戦いたいっす、シェン・リー。タイマンで白黒つけないっすか?」


 問われた相手は、懐中電灯を地面の隅っ子に置き、スイッチを入れる。


 意味もなく真上を照らし、ライトオブジェクトのような役割を果たした。


 他に収集品を持っている気配はなく、肉体とセンスのみが武器となる舞台。


「よかろう。……三手で詰ませてやろうぞ」


 こうして成り立つのは、シェンとのエクストラゲーム。


 残された役者はおらず、真の勝者を決める戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ