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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第131話 デスマッチ

挿絵(By みてみん)




 人間界から失われた概念、【火】。


 その災厄を招いたのは、魔神の契約者。


 私的に【火】を捧げ、神に対する特攻を得た。


 現代の法律なら、【火】を捧げた犯人が罰を受ける。


 ――ただ、用があるのは黒幕。


 影で実行犯を操り、【火】を奪った元凶。


 自分は全く手を汚さず、利益だけを絡めとる。


 この手の輩は、捜し出すまでに超絶手間がかかる。


 ありもしない痕跡から、居所を掴む面倒な工程がいる。

 

 ――しかし、奇遇にも黒幕は目の前にいた。


「アイデア、パクってもいいっすか?」


 メリッサは、玉座に座る魔神蓮妃に交渉を持ちかける。


 視線の先には、『キョンシー服』を着た実行犯の映像が見えていた。


「我から借りるなら有償。勝手にパクるなら無償ね。前者は100%の発生保証。後者は一切責任を取れナイよ。作戦に確実性を求めるなら、どちらを選ぶのが利口か。今のメリッサなら深く考えなくても分かるな?」


 諸々の事情を踏まえて、魔神から提示されたのは二択。


 代償を支払って安定を選ぶか、リスクを取って不安定を選ぶか。


 どちらも一長一短で判断の鍵を握るのは、成功させたい度合いで変わる。


(次の勝負はどうしても負けられないっす。ただ、だからといって……)


 リスクリターンを考慮して、思考を巡らせる。


 その上でどちらを取るべきかは、重々承知してる。

 

 『利口』な自分なら、何をすべきか考えるまでもない。


「あー、だったら、勝手にパクらせてもらうっす。後から訴えるのは無しっすよ」


 そう頭では分かっていても、真逆の行動を取ってしまう。


 頭が冴えるからと言って、性根が変わったわけじゃなかった。


 ◇◇◇

 

 奪われた【火】を人間界で使えるか。


 【火】を奪った本人から能力をパクれるか。


 不完全な変身物語メタモルポセスを実用段階に持っていけるか。


 悪魔化した自分でも、上手くいくか分からなかった。


 分が悪いとまでは言わないものの、確実性に欠けていた。


 ――でも、上手くいった。


「遊びはもう終わりっす。悪魔界の業火、その身で味わってもらうっすよ」


 メリッサの両手に纏われているのは、紫炎。


 一鉄が振るう刀を、一瞬で溶かし切るほどの火力。


 博打を通し、逆境を覆して、優勢になったように思えた。


 ただ、喜んでばかりもいられない。残された時間は限られてる。


「ほざくな。化け物風情が……つ!!!」


 すると、鬼の形相で迫り来るのは、一鉄だった。


 手には杖刀の鞘を持ち、肉体を頼りに吶喊している。


(剣術は予想できても、体術は未知数。探る暇もないと来れば……)


 あらゆる選択肢が脳内に巡るほど、頭は回っていない。


 やることは一つ。だからこそ、目の前の事柄に集中できた。


(先手必勝あるのみっす!)


 メリッサは両手の拳を握りしめ、正面から迎え撃つ。


 考えていたことは、拳でぶっ飛ばす。たったそれだけだった。


 ◇◇◇

 

 迫り来るのは、思考停止の右拳。


 本来なら、取るに足らない一撃だった。


 問題は火力。手に纏った炎に耐えられるのか。


(センスを集中すれば、恐らく火は防げる。だが……)


 拳が迫るまでのわずかな時間、死の瀬戸際まで頭を回す。


 負担となるのは右足。センスなしではまともに動かない足枷。


 身体の一部に集中すれば、戦うのはおろか、歩くのも困難になる。


(仕方ない。借りるぞ、賀月かづき


 一鉄は鞘を横一文字に構え、受けの姿勢。


 体術に重きを置いた、臥龍型におけるカウンター。


「北辰流――【雲竜柳ウンリュウヤナギ】」


 拳が鞘に触れるのとほぼ同時に、一鉄は行動を開始する。


 腕を鞘で絡めとって、背後を取り、拘束するまでが一連の流れ。


(……っっ!!!!)


 しかし、そう簡単にいくわけがなかった。


 拳が鞘に触れたと同時に、余熱で肌が溶けていく。


 両腕には激痛が走り、想像以上の激痛に意識が飛びかけた。


 ただ、センスの壁を破られることはなく、右拳と鞘は拮抗している。


(四肢が動くのなら、なんの問題もない……っ!!)


 身体を無理くり動かし、型通りの動きを試みる。


 拘束さえできれば、失血死までの時間は十分稼げる。


「……っ!?」


 しかし、カクンと足が崩れ、その場に立っていられなくなる。


 受け身も取れないまま、地面に突っ伏し、技は不発に終わっていた。


(なにが……)


 反射的に視線を送った先、右足には拳の跡がついている。


 指の向きから考えれば、左拳。先ほど打ったものとは反対の手。 


 恐らく、正面に意識を割かせ、見えない角度から空いた拳を叩き込んだ。


「弱点は右足。読みは当たったみたいっすね。何か言う事はないっすか?」


 理解したと同時に、メリッサは答えを告げる。


 顔の真横には、炎を纏った拳が近付けられていた。


 黙秘を続ければ、容赦なく業火に焼かれることだろう。


(これも何かの縁、というわけか……)


 一鉄は少し先の未来を見据え、軽く息を吸う。


 頭に浮かぶ文言を口にすれば、確実に縁が結ばれる。


 一度結ばれれば、最後。逆らうことも逃げることできない。


 ――それでも。


「参った。私の負けだ。臥龍岡メリッサ」


 一鉄は素直に敗北を認め、聖王剣による再生阻害を解除した。


 メリッサに失血死が訪れることはなく、デスマッチの勝者は決まった。

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