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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第127話 人間対化け物

挿絵(By みてみん)




 滅葬志士という組織の理念は、化け物を狩ること。


 数百年前に発足した当時から、方向性は変わってない。


 先祖代々から技や武器は受け継がれ、より研磨されている。


 組織の規模も構成人数も、当時に比べれば、格段に増強された。


 ――それでも、黄金時代には程遠い。


 骸人に領土を支配されていた頃は、少数精鋭。


 人口は激減しており、武器も技も組織も発展途上。


 身分は奴隷に近く、人の往来は厳しく制限されていた。


 現代に比べれば、不便極まりなく、劣悪な環境だと言える。


 ――だからこそ、飛躍的な進化を遂げた。


 平和になった今の帝国では、再現できない時代背景。


 先が見えない暗闇に追いやられてこそ、人間は成長する。


 便利と平和の代償に、成長機会が損失したと断言してもいい。


 ――今のままでは、黄金時代を超えられない。


 これでも、数々の戦場を生き抜いて、実力を磨いた。

 

 鍛錬を重ね、センスを極めて、幾多の死闘を乗り越えた。


 組織の頂点に立ち、若手を育成して、優秀な棟梁を輩出した。


 だが、届かない。偉大なる先人達と比べれば、足元にも及ばない。


 ――その代表格が、初代総棟梁『臥龍岡ながおか夜助やすけ』。


 骸人を掃討し、その生みの親である妖術師を葬った。


 帝国の領土を取り戻して、滅葬志士の基盤を作り上げた。


 その足跡を必死で追い続けているが、背中すら見えてこない。


 過去の偉人と割り切れば、気にしないで済むが、そうもいかない。


 ――彼は存命であり、生ける伝説と化している。


 数百年が経った今、なぜ生きているのか。


 所在地はどこで、なにを目的としているのか。


 不明な点は山ほどあるが、確実に死んではいない。


 その決定的証拠となったのが、本人による直筆の手紙。


 今よりも数か月前、内閣総理大臣だった頃、官邸に届いた。


 宛名も消印もなく、中身には達筆な文字で、こう書かれていた。


 ――『わしの背中を超えてみろ』。


 見た瞬間、手紙を握り潰したのを今でも覚えている。


 その当時は、総棟梁と総理大臣の両方をこなしていた。


 政策に没頭して、やりたかったことから目を背けていた。


 ただ、背中を超えるには、二足の草鞋ではたどり着けない。


 伝説を超えるには、半端な覚悟だと潰れるのは分かっていた。


 ――だからこそ、内閣総理大臣を辞職した。


 総棟梁に集中し、残りの人生の全てを費やすと決めた。


 滅葬志士を成長させ、かつての黄金時代を超えると誓った。


 そのための目標となるのは、個人の成果と組織としての実績だ。


 双方が過去の水準より上回ってこそ、初代に認められると判断した。


 あざみのマカオ行きに同行したのは、個人としての成果を残すためでもある。


 ――最上位級悪魔の討伐。


 こんなものでは超えたとは言えない。


 アサドが現実世界にもたらした被害は皆無。


 悪魔界で偉くとも、人間界では悪名も名声もない。


 どれだけ世間に貢献できたかが、評価の鍵を握っている。 


 ――焦点となるのは、人類に仇なす必要悪の存在。


 名のある悪を討伐してこそ、成果としての価値がつく。


 今は模索段階でありながら、最前線にいるのを自覚していた。


 なぜならここは、格好の修羅場。必要悪になり得る相手が大勢いる。


 ――その有力候補が、臥龍岡ながおかメリッサ。


 皮肉にも、初代総棟梁の血を引いている存在。


 悪名が轟いた上で討伐すれば、成果になるだろう。


 実際、人類に仇なす野心もポテンシャルも秘めている。


 ――だが、殺すのは今ではない。


 家畜の如く、充分に肥えさせてから屠る必要がある。


 そのため、生かさず殺さずで処理しなければならなかった。


 本来なら面倒な手間が生まれるが、幸いにも、舞台は整っている。


(勝利条件は『参った』と敵に言わせること。そのためにも……)


 一鉄は思考をまとめ、現実に目を向ける。


 そこには、紫髪のバニーガールが立っていた。


 両手には白と黒の手袋をつけ、黒糸を放っている。


 右手で糸を生成し、左手から影を生み、コーティング。


 そこにセンスを通して、強度を向上させるのが、今の戦法。


 他の異能はさておき、こちらの斬撃と拮抗する厄介な合わせ技。


(――全力で叩き潰させてもらおうかぁ)


 黄金色のセンスを迸らせ、一鉄は剣気を高めていく。


 黒糸が肌に到達する寸前まで呼吸を整え、静かに言い放つ。


「北辰流――【聖王剣】」


 己が流派における、奥義。


 それを見せるに値する相手だった。

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