第12話 次なる博打
ザ・ベネチアンマカオ地下107階。認定の間。
大半の参加者が、上階へと移動を開始していた頃。
悪魔チンチロによる最後の勝負が終わろうとしていた。
茶碗には、三つのサイコロが投げられ、出目が揃っている。
「6のゾロ目は三倍払いじゃ。悪いの」
声を発したのは、広島弁を扱う女性の声。
見た目は、黒のパーカーに、白の般若の面を被る。
フードを深く被って、髪色も顔の形も伺うことはできない。
「嫌だ、死にたくない……。まだ俺は何も成し遂げて――」
黒服を着る若い男性は、縋るように手を伸ばすも、届かない。
兵どもが夢の跡。男の身体は消え、スーツと靴だけが地面に残った。
◇◇◇
特急権用エレベーター内。五人用エレベーターは上階に進む。
乗っているのは、定員上限の五名。無派閥のメリッサ一行だった。
「いまんところ、ゲームは順調ちゃあ順調っすけど、ここらで、『悪魔の使役権』を得た場合、どうするか。ハッキリさせとかないっすか? 後でさっきみたいに揉められたら困るっすからね」
メリッサは話を切り出し、沈黙の間を埋める。
ルール上、悪魔の使役権を得るのは、早いもの勝ち。
地上にたどり着いた上位五名。集団じゃなく、個人が対象。
今は手を組んでいたとしても、いずれ限界が来るのは目にみえた。
「俺はメリッサの使い方に合わせるよ。正直、悪魔にあんまり興味はない」
「我は……我のために使わせてもらうよ。命を張る以上、当然の権利主張ね」
ジェノは欲がなく、蓮妃は欲丸出し。
対照的な反応を見せ、視線は残る二人に向く。
「あたいは、ジェノのために使う。それ以上は言えないね」
「私は、最初だけ私利私欲に使います。その後は、シェアしても構いません」
全員の意見が出揃い、詳細は見えないものの、方向性は見えた。
どう使うかはともかく、ここで方針を定めておけば、後腐れがない。
「じゃあ、悪魔は勝者が好きに使う。結果に恨みっこなし。これでいいっすね?」
意見をまとめ、メリッサは必要最低限の決まりを設ける。
「うん」
「当然ね」
「もちろんそのつもりだよ」
「承知しました」
そこで話はまとまり、エレベーターは順調に上階へと向かった。
◇◇◇
ザ・ベネチアンマカオ地下85階。遊楽の間。
広大なホールには、機械的な台が複数設置してあった。
けたたましい音を鳴らし、激しい光を過剰なほど明滅させている。
「ぷっははっ、何が来るかと思ったら……」
真っ先にたどり着くメリッサは、笑みをこぼし、一目で理解する。
世界的に普及するギャンブル。一年で80億ユーロ以上が動く巨大市場。
メダルを借りて、投入し、抽選レバーを叩き、ボタンを押す。それが流れ。
確率で、機種ごとに設定された大当たりを引けば、メダルが増える仕様の博打。
「スロットっすか!!」
くるりとその場を回り、バラエティ豊かな画面が目に入る。
最新のタイアップ機から、メーカーのオリジナル機まで勢揃い。
アナログな博打から、一気にデジタルな博打へと変貌を遂げていた。
「……うわ、すごい音」
「よくもまぁ、これだけ集めたもんだね」
「帝国製……。となれば、担当悪魔はきっとアイツね」
「回胴式遊技に縁はありませんでしたが、不思議と懐かしいような気がします」
各々が反応を示し、両脇に並べられたパチンコ台を眺めていく。
自然と全員は通路を前進し続け、少し開けたスペースに辿り着いた。
そこには、開けた空間とは不釣り合いな一台のスロットが置かれている。
『いらっしゃい、お客はん。下階で損した枚数分、ここで遊んでいけへん?』
声をかけてきたのは、次の区画の担当悪魔。鬼道楓。
そのささやきが、メリッサたちを新たな博打へと誘った。