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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第116話 異色

挿絵(By みてみん)





 隠密部隊『滅葬志士』。


 大日本帝国を影で支えた組織。


 設立された当初の目的は、一つのみ。


 数百年前、帝国の領土を支配した魑魅魍魎。


 『骸人』を排除し、帝国領土を取り戻すことだった。


 今やそれは達成され、組織の目的は時代に合わせ変化した。


 ――『特定外来種』の排斥。


 『骸人』に支配された歴史を繰り返さないための処置。


 帝国憲法9条に記載され、幅広い解釈が可能となっている。


 具体的には鬼、悪魔、妖怪、怪異、魔物、特異体、その他諸々。


 それらを帝国領土内で活動させないのが、現在の目的となっている。


 ――しかし、それすらも変わる流れにある。


 伊勢政権が掲げる政策は、憲法9条の改正だった。


 幅広い『特定外来種』の解釈に、例外を加えるかが焦点。


 それを見極めるためには、直に接触するのが手っ取り早かった。


 ――目の前には、貴重なモデルケースがいる。


 肩書きは、最上位級悪魔。十二貴族に位置する存在。


 本来なら敵に当たる存在だが、ここは中国の領土にあたる。


 憲法9条は適用されず、『滅葬志士』の責任者としてやることは一つ。


「私は味方だ、アサド・クズネツォフ。総棟梁として、お前の生き様を見届ける」


 千葉一鉄は杖刀を振るい、ヘケトとベクターを峰打ち。


 バタンと音を立て、あっさりと地面に気絶させていった。


 攻略条件である二つの旗が地面に転がるが見向きもしない。


 ただ、目の前で呆然とする悪魔の顔を、真剣に見つめていた。


「……おい、待て。一体、どういう了見だ? いや、なんのために冥戯黙示録に参加した! クリアは目前だろ。何も考えずに戦えよ。属する種族も宗教も血統も違う赤の他人のてめぇに、ゲームの進行管理を頼んだ覚えはねぇぞ!」


 常軌を逸した行動に、アサドは声を荒げる。


 見方によっては冷やかしのように思えるだろう。


 真面目に攻略するなら、悪魔を退き、進むのが順当。


 それを台無しにする行為を前に、主催者は糾弾していた。


 ――その上で問われるのは、動機。


 恐らく、参加者の大半は『悪魔の使役権』が目的。


 上位入賞者五名に与えられる特権であり、入手は目前。


 その最後の難関として立ち塞がるのが、彼の本意に見える。


 だがそれらは、こちらの思惑に必ずしも結びつくものではない。


「独創世界が崩壊すれば、お前は死ぬ。……違うか?」


 一鉄は言いたいことを凝縮し、本質部分に踏み込む。


「……ッ」


 アサドの表情は揺らぎ、図星だと物語る。

 

 彼の残された時間を浪費するのは、忍びない。


 できるだけ短い言葉で、納得させる必要があった。


「死に際の行動には本性が出る。私はそれが見たい、とだけ言っておこうかぁ」


 一鉄は目的を包み隠し、一部を語る。


 この場で全てを語り尽くす必要はなかった。


 懐を明かしてしまえば、ここに来た意味を見失う。


 これが最善であり、任務の内容に沿っていると判断した。


 少なくとも、本性を見せる前に殺される事態だけは、避けたい。


「物好きが。やる気ないなら、傍観してろ」


「無論、そうさせてもらう。こいつは好きに使え」


 一鉄はヘケトの衣服を探り、そこから牛乳瓶を放り投げる。


 満足のいく死を見届けるには、弟の復活は、必要不可欠だろう。


 本性を見定めるためには、余生の願いを叶えさせるのが、効果的だ。


 牛乳瓶に秘められた能力の詳細は、主催者なら説明せずとも分かるはず。


「……効果が出るのはどれぐらいだ?」


 瓶の蓋を開け、迷うことなく弟の口に流し込み、アサドは言った。


「恐らく、一分弱。それまでは全力で守護する」


 全面的に協力する旨を伝え、一鉄はアサドの横に立ち並ぶ。


 人間と悪魔。滅葬志士と特定外来種。相容れない者同士の共闘。


 そして、後ろを振り返った先には、似て非なる組み合わせが現れた。


「あ? どうなってんだ、こりゃあ……」


「やることは変わらん。立ち塞がるなら全て敵だ」


 ルーカスと閻衆。人間と鬼。


 異色の組み合わせは、互いに牙を見せた。 






 ――独創世界崩壊まで残り二分。


 




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