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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第114話 心が赴くままに

挿絵(By みてみん)




 製鉄所内。化学工場前。


 機械の駆動音は一切せず、無音。


 不気味な静けさを発している場所だった。


 正面には半開きの扉があり、隙間から光が漏れる。


 物資搬入用の大きめのスライドドアで、簡単に侵入できる。


 ――ただ。


「脱出地点はここでいいのかな……?」


 足を止めたヘケトは、ふと問いかける。


 その手には、青色と黄色の旗を持っていた。


 旗は一つで二人まで脱出可能になる、アイテム。


 最大四人まで使用可能だけど、脱出地点の情報はなし。


 来た道を戻ってきただけで、ここが順路かどうかは不明だ。


「高炉は爆散、発電所は破損。『遊戯をクリアし、上階を目指す』という冥戯黙示録のコンセプト上、独創世界の中であろうがエレベーターを介する必要があり、屋外も考えにくい。消去法で考えるのなら、ここに違いない」


 ベクターを背負う一鉄は、理路整然と質問に答える。

 

 製鉄所の主要施設は、高炉、発電所、化学工場の三か所。


 針葉樹の森もあるけど、大半は自然で、通電する施設はない。


 現在稼働中で、エレベーターが備わる条件ならここしかなかった。 


「……なるほど。じゃあ後は、工場内を探すだけだね!」


 ヘケトは旗をギュッと握りしめ、意気揚々と語る。


 ゴールが見えてきた気がして、少しテンションが上がった。


「だと、いいが……」


 ただその一方で、一鉄の表情は暗い。


 先行きに、不安を感じているようだった。


「誰が相手でも平気だって。進行者プログレッソルを倒した僕たちならきっと――」


 未だに気絶しているベクターを見つつ、語る。

 

 白銀色の強化外骨格パワードスーツを纏い、量子刀を背中に装備。

 

 ――荷電粒子砲を斬った凄腕だ。


 こっちの背中には、超電磁砲レールガン。一鉄はセンスと剣術の達人。


 全て揃えば、誰にも負けない。それぐらいの自信も実績もあった。


「「……っ!!?」」


 しかし、そこで感じ取るのは、異様な気配。


 内蔵を下から押し上げられるような圧を感じる。


 四足歩行兵器――進行者プログレッソルと対面した時とは一味違う。


 スケールが大きいから、みたいな物理的なものじゃない。


 気圧されて、足がすくんでしまうような、精神的にくる相手。


(とんでもない使い手だ……。三人がかりでも負けるかも……)


 ゲームの縛りで意思の力は使えないし、見えない。


 だけど、突き抜けた気配だからか、嫌でも察知できた。


 センスを扱えていた一鉄なら、より鋭く伝わっているはず。


 最悪の場合、戦う意思そのものを折り砕いているかもしれない。


「どうやら、透けたようだなぁ。脱出地点と次の獲物が」


 しかし一鉄は、屈託のない笑みを浮かべている。


 その表情はどことなく、無邪気な子供みたいだった。


 ◇◇◇


 針葉樹の森。化学工場より西に300メートル地点。


 そう遠くない地下からは、感情が昂ぶられるような熱を感じた。


「こいつは……っ!! おい、今の感じたか?」


「ズブの素人と一緒にするな。これで、脱出地点は透けた」


 反応するのは、ルーカスと閻衆。


 互いの視線は一致し、化学工場に向く。


 足元には不発の兵器。RPG-7が転がっていた。


 裏切りの報酬を巡った攻防。その矢先に起きたこと。


「ゲームの終焉も近いってぇとこだな。たまの取り合いはどうする?」


「無論、お流れだ。旗を持っている奴から奪った方が手っ取り早い」


 相方を殺せない以上、選択肢は限られる。


 ゲームをクリアには、旗と脱出地点の確保が必須。


 状況的に、大詰めの戦闘が行われようとしているのは明らか。


「つまり」


「共闘だ」


 ルーカスと閻衆は互いに目線を合わせ、言い放つ。


 ここにきて意見が揃い、再び同じ方向へと足並みは揃った。


 ◇◇◇


 針葉樹の森。独創世界の最果て。


 すぐ後ろに迫るのは、世界の消失だった。


 ガラスのようにバリバリと音を立て、進行している。


「……戦争の件はさておき、『今』はどうするカ?」


「崩壊に巻き込まれれば、どうなるか分からん。攻略はマストだ」


 逃走中の蓮麗とマイクは、目的を擦り合わせる。


 少ない言葉ながら、早くも方向性は定まろうとしていた。


「概ね同意するネ。……ただ、旗と脱出地点どちらもないヨ」


 問題は、クリアできる権利がないこと。


 最前線で戦っていたものの、収穫はなかった。


「いや、片方に関して言えば――」


 マイクは、心当たりがあるような節で話そうとする。


 ただ、すぐに口を閉ざすような事態が起きてしまっていた。


「「……っ!!!」」


 心の奥底を突き上げるような、センスの躍動。


 身を焦がすような熱量、混じり気のない意思を感じる。


 その力場の中心点も、発している人物にも、心当たりがあった。


「この気配……間違いない、『マクシス』ネ。場所は」


「化学工場の地下トンネルだ! 決着の時は近いぞ……」


 情報を出し合い、状況を把握し、前を向く。


 向かう方向は定まり、心なしか走る速度が上がる。


 暗黙の了解の中、目的地に進むも、確認すべきことがある。


「だったら、合流し、旗を奪う。異論はないカ?」


「オーライ。俺たち二人が揃えば、向かうところ敵なしだ」


 短いやり取りを交わし、互いの意見は合致する。


 足取りは軽く、今だけは嫌なことを考えずに済んだ。


 ◇◇◇


 ここは、熱量の中心点。迸るセンスの源流。


 地下トンネル内で対峙しているのは、人間と悪魔。


 異なる色を放ち、青と赤のセンスは互いの個を主張する。


「手段は何がお好みだ? 白兵戦か、それとも、銃撃戦か?」


 首の骨を鳴らし、アサドは問いかける。


 こうなることを見越したかのような反応だった。


 進言すれば、恐らく、望む舞台を用意してくれるだろう。


 ナイフや弾倉を用意できるぐらいのリソースは残っているはずだ。


 ――だが、答えは決まっている。


 これは、マクシス・クズネツォフ一個人としての自我エゴ


 意見の主張であり、兄への反抗であり、自由意思そのもの。


 第三者に捻じ曲げられていいものではなく、熱量が最も乗る戦。


 見ないフリをしていた。感情に蓋をして、軍事戦術に染まっていた。


 ――もう我慢する必要はない。


「私が望むのは……」


 マクシスは金色に輝く右手を掲げ、語り出す。


 意思の力が使えない状態では、ただの義手だった。


 失った右手の機能を補う以上の効果は発揮しなかった。


 しかし今は違う。元の右手以上の力を引き出すことが可能。


 反聖遺物アンチレリックと呼ばれ、最先端科学により生み出された近未来兵器。


 その行き着く先は決まり切っている。白兵戦でも、銃撃戦でもない。


 大きく息を吸い込み、センスを高め、マクシスは言葉に熱と魂を乗せる。


「――――――――――――異能戦だッッ!!!!!」


 世界の終末に轟くのは、自己主張と青い雷光。


 それは、自分の道を進むと決めた、存在の証明だった。

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