第11話 稼ぐ手段
「ひとまず、状況整理と行かないかい?」
勝負が終わった卓には、マルタの声が響いた。
ギャラリーは消え、各々が自分の勝負に集中する。
「……それも、そうっすね」
頭がぼんやりするものの、卓に手をかけて、起き上がる。
死と隣合わせの賭場は終わった。ここからは慎重に行く必要がある。
「だったら、カードとチップの確認だよね。俺はブラックで、残高一枚だよ」
ジェノは話に乗り、自身のカードを見せた。
たぶん、ルーカスから借りていたのは、二枚。
一枚は補填用。一枚は破産を防ぐための保険用。
全員がピンゾロを引く可能性を考慮していた計算。
抜かりなく、無駄のない計画に惚れ惚れしてしまう。
「私はゴールドカード。残高は二十枚です」
「我はプラチナカードよ。残高は三十枚ね」
「あたいはブラックカード。残高は五十枚」
「うちはグリーンカード。残高は一枚っす」
アミ、蓮妃、マルタ、メリッサの順にカードを見せる。
「うーん……メリッサでグリーンか。どういう計算なんだ?」
一通り情報が出揃い、疑問を挟んだのはジェノ。
配られたカードの種類は、命の価値によって決まる。
グリーン<ゴールド<プラチナ<ブラックの順番で偉い。
彼の目線だったら、過小評価されているように感じるらしい。
「ポテンシャル順じゃないっすか。うちとしては、全く異論ないっすね」
正直、栄えある面々と比べたら、妥当も妥当。
身の丈以上の評価を望めば、罰が当たる気がした。
「俺としては、ブラックでも遜色ないと思うんだけどなぁ……」
「まぁ、悪魔の評価軸を議論しても仕方ない。問題は、どう稼ぐかだよ」
答えの出ない問いを前に、マルタは話を仕切り直す。
二十代前半の見た目の割に、言葉から年季を感じられた。
経歴から考えれば納得でも、周りからどう見えるかは別問題。
「年下のくせに偉そうね。ブラックだからって、格上のつもりか?」
態度が気に食わなかったのか蓮妃は、喧嘩腰に突っかかる。
カードの色という目に見えた格差。それによる確執が生まれていた。
「いいや、色じゃなく、経験も実績もあたいが上。黙って従っときな、始皇女帝」
拍車をかけるように、マルタは煽り立てる。
めんどいことになってきた。反応は目に見えてる。
「あぁ……? 肩書きで我を知ったつもりか? 片腕へし折るよ?」
「やれるもんならやってみな。アンタはあたいに指一本触れられないよ」
二人は構え、場は剣呑な空気に満ちていく。
その気配を感じ取り、ゴロツキ共が集まり出した。
このまま放置すれば、まず間違いなく、野試合が始まる。
(止めるのが正攻法っすけど……。ここは……)
一方で、メリッサが感じ取るのは、金の匂い。
無法者にこそ喜ばれるコンテンツが生まれる予感。
「さぁ、張った張った! メス対メスの拳闘試合! どっちに賭けるっすか!!」
すかさず賭博の胴元を申し出ると、場は熱狂の渦に包まれた。
◇◇◇
拳闘試合の決着がつき、精算が終わる。
手元に残っているのは、五十枚ほどのチップ。
「ふぅ……。気前のいい人が多くて助かったっすね」
メモ帳とペンを懐にしまい、メリッサは本音を吐露する。
払い戻しは利益率のことを考慮しなかった。そのせいで赤字。
本来なら、泣きを見るところだったけど、ギャラリーに救われた。
「楽しませてもらった代、だよね。申し訳ないなぁ……」
ジェノはチップの重みを理解し、肩を落とす。
勝負による熱狂が、気前のいい悪乗りを生んだ。
「もらえるもんはもらっとこうじゃないか。そうだろ? 蓮妃」
「…………はいな」
すっかり意気投合した、マルタと蓮妃は肩を組む。
当然、勝ったのはマルタ。下馬評通りの単純な結果。
「ともかく、これで五十枚。先に進めますね」
パンと両手を叩き、アミは前向きな方向に舵を取った。
特急権は五十枚。チンチロで稼ぐまでもなく、購入できる。
進むのは賛成ながらも、少しだけ気になっていることがあった。
「借りた分は、返しておかなくていいんすか?」
ルーカスから借りたと言った、二枚のチップ。
返済期限と利息があるなら、早いうちの方がいい。
「うん、大丈夫。チップとは別のもので交換したから」
俯きながらも、ジェノは語る。
表情から内容を読み取ることはできない。
(嘘じゃないなら、いいっすよね)
それ以上、深掘りすることなく、メリッサは特急権を購入。
掲示板から発行される、一枚の紙切れを握りしめ、先に進んだ。