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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
105/156

第105話 それぞれの進捗

挿絵(By みてみん)




 火災が鎮まった針葉樹の森、上空。


 そこでは、居心地の悪い風が吹いていた。


 空気がジメジメして、カラッとした感じはない。


 湿度の問題かもだけど、火事の後と考えればおかしい。


(何か、変……)


 風に揺られ、空中にいるアザミは違和感を察する。


 おかしいのは分かるけど、詳しい原因までは分からない。


 ただ、何かあったのは確実で、恐らく、向かう先で起きたこと。


(急がないと……。取り返しがつかなくなる気がする……)


 不穏な気配を感じつつ、アザミは風に乗る。


 ジェノがいる目的地まで、そう遠い場所ではなかった。


 ◇◇◇


 針葉樹の森、枝葉の灰が積もる場所。


 そこには、地面に倒れ込む二人の男女がいた。


「…………」


 広島はパチリと目を開き、起き上がる。


 異変を察し、辺りを注意深く観察していく。


(何が、起きたんじゃ……)


 見えるのは、半焼した樹々。


 感じるのは、底知れないセンス。


 聞こえるのは、尋常じゃない打撃音。


 五感を総動員して、違和感の正体を探る。


「白き神と同等……いいえ、それ以上の存在がいるみたいねん」


 答えを口にしたのは、隣で寝転ぶバグジーじゃった。


 言葉尻は軽いものの、事態を重く受け止めとるのが分かる。


「ずらかるか?」


 すでに、白き神とは白黒ついた。


 正面から挑んで、あっさり敗北した。


 今は当時よりも、さらに悪化しとる状態。


 ――センスをぶつけ、『神醒体』に促し、ジェノを呼び起こす。


 当初の予定から考えれば、役割不足。

  

 感じる気配からすれば、戦う次元が違った。


 目を背け、逃げおおせるのが一番現実的じゃった。


「聞かなくても、やりたいことは決まってるんでしょ」


 バクジーは起き上がり、諭すように語る。


 導き出す答えを、すでに察しとる感じがした。

 

 そこまで言われたら、口にする言葉は限られとる。


「バレとったか……。悪いけど、最後まで付き合うてもらうけぇな」


 ◇◇◇


 針葉樹の森、化学工場に通じる二車線の道路。


 辺りは進行者プログレッソルの残骸が飛び散り、地面は陥没している。


「旗はあったけど……アレ、どうしよう」


 ヘケトは黄色と青色の旗を持ち、語り出す。


 相談するのは、今後の進路。次に何をするべきか。


 遠くない場所から感じる異様な気配に、どう応じるのか。


「触らぬ神に祟りなし。今は脱出地点を探すのが賢明だ」


 質問に答えたのは、相棒の一鉄だった。


 背中には強化外骨格を纏う、ベクターもいた。


 どう考えても戦える状態じゃないし、戦う理由もない。


「……そう、だよね。分かったよ」


 後ろ髪を引かれる思いがありつつも、ヘケトは指示に従った。

 

 ◇◇◇


 化学工場、電気室。メリッサとの合流地点。


 停電は復旧し、辺りは白熱灯で照らされている。


 地面には幾多の空薬莢が転がるものの、人影はない。


「もぬけの殻、か……」


 一通りの探索を終え、マクシスは独り言をこぼす。


 遠くの気配は嫌でも感じる。それでも合流を優先した。


 戦場から逃げた。役割から逃げた。それを懺悔したかった。


「不甲斐ないな。あいつは役目を全うしたのに、私は……」


 地面を見つめ、力不足を一人で嘆く。


 励ましてくれる人や、叱咤する者はいない。


 孤独の中で自問自答し、答えを出すしかなかった。


「……?」


 すると、空薬莢が転がる地面に違和感を覚える。


 反射的に残骸を足で払いのけると、文字が刻まれていた。


『脱出地点の確保は任せたっす。兵器の件は気にしなくていいっすよ』

 

 それは、一番欲しかった言葉。

 

 答えの出ない悩みへのベストアンサー。


 やるべきことは定められ、役割を全うするのみ。


「……了解した」


 視界がジワリと滲みながら、ベクターは遅れて返事をした。


 ◇◇◇

 

 化学工場内、地下トンネル。


 天井の蛍光灯が辺りを淡く照らす。


 丸みのある内観。パイプ内のような構造。


 中央には排水路。両側には通路と錆びた手すり。


 水滴がピタピタと音を立てる中、そこには老人がいた。


「……」


 シェンは足を止め、懐中電灯で暗がりを照らす。


 丸い光が明らかにするのは、錆びれたエレベーター。


 旗を差し込む穴が三つほど付く、唯一の脱出地点だった。


「布石は打った。気長に待たせてもらおうかの」


 懐中電灯の明かりを消すと、シェンは暗闇の中に紛れていった。

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