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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第103話 災いが起こる前

挿絵(By みてみん)




 白き神と蓮麗の取引が終わる一分前。


 炎上する森の中を、二人の男女が駆ける。


 男は肩にRPG-7、女は腰に刀をそれぞれ装備。


 互いに口を閉ざし、樹々の悲鳴だけが響いている。


 視線の先は火で不明瞭ながら、進路に迷いはなかった。

 

「……あ、あの」

 

 アザミは緊張した面持ちで、声を発する。


 視線は下を向き、刀の鞘をぎゅっと握っていた。


「どうかしたか? 疑問があるなら、気兼ねなく言ってくれ」


 ルーカスは快く応じ、話しやすい場を整える。


 紳士的な対応。男性恐怖症への配慮が感じられた。


 今のところ、良い人。だけど、全幅の信頼は置けない。


「ど、どうして、最短で追いかけなかったんです? 出来ますよね、空中歩行」


 アザミは少しの勇気を振り絞り、尋ねる。


 それは、関係が崩壊する可能性を秘めた質問。


 昔なら言わなかったけど、今は曖昧にしたくない。


 ――肩書きは、内閣総理大臣。


 些細な違和感を放置する癖は、つけられない。


 身の回りにいる人のリスク管理は立場上、必須。


 杞憂だと思うけど、事前に解消しておきたかった。


「あいつは元々、俺の相棒バディじゃなかったからな」


 しかし、彼が口にしたのは、ゾッとする言葉。


 不安を抱く要素しかなく、血の気が引くのを感じた。


 ――バトルフラッグは基本、二人一組。


 ゲーム開始時の人数が少ないか、端数だとソロになる。

 

 それ以外はデュオになって、マイクが相棒だと思っていた。


 だけど、違った。ルーカス目線なら攫われた人はルール上の敵。


 ――特別な事情がなければ、助ける価値がない。


 同行していた理由は不明だけど、事実なら非常にまずい。


 今の自分は、マイクと同じ立場であり、共闘する理由がない。


 これまでの会話は、全てが嘘だ。恐らく、森に誘い込むための罠。


 ――つまり。


「ね、狙いは私……」


 アザミは震えた声で、結論を口にする。


 まだ分からない。まだ確定したわけじゃない。


 だけど、その答えは、行動で示されることになった。


「ご名答だ、内閣総理大臣。……いや、姐さんの仇」


 背後に現れたのは、赤髪リーゼントの赤スーツを着た鬼。


 鬼道組組長――閻衆は、こちらの体を羽交い絞めにしていた。


 彼を動かす原動力は、憤怒。元組長を失った怒りをぶつけている。


「あ、あ……」


 頭が真っ白になって、力が抜けて、震えが止まらない。


 鬼とはいっても、性別がある。変えようがない事実がある。


 ――男性。


 過去のトラウマが呼び起こされ、動けない。


 気力を奪われて、抵抗するどころじゃなかった。

 

「悪ぃな、アザミ。文句は悪魔になってから言ってくれや」


 足を止めたルーカスは、RPG-7の弾頭を向けている。


 対戦車用の擲弾。ロケット推進し、着弾すれば起爆する。


 収集品の可能性が極めて高く、こちらのライフは、残り一つ。


 恐らく閻衆は、巻き込まれる前提で動いていて、拘束は解かない。


(こ、殺される……。こんなところで……っっ)


 混乱する頭で必死に考えても、結果は同じ。


 助かる確率は万に一つもなく、行き先は悪魔界。


 やりたいことが全て叶えられなくなる未来が見えた。


「「「――――ッッ!!?」」」


 その時、地面が激しく揺れ、樹々を燃やす火が消滅した。


 明らかなる異常。近くから感じるのは、底が見えないセンス。


 その場にいた全員は呆気に取られ、身動きが完全に止まっていた。


(今の、うちに……っ!!)


 真っ先に正気に戻ったアザミは、身体を動かす。


 拘束は緩んでいて、大した力を入れることなく解放。


「つ、償いは、憲法改正という形で必ず……」


 横目で閻衆の姿を捉えながら、アザミは公約。


 そのまま地面を蹴り、高く跳んで、風と一体になった。

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