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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第101話 センスの応用

挿絵(By みてみん)





「「……」」


 生ぬるい風が吹き抜け、衣服が揺れる音が鳴る。


 白き神はアフリカ系男性を姫の如く抱え、宙を舞う。


 眼下には炎上する森が見えながらも、落ちる気配がない。


 物理現象から反する動き。可能とするのは、経験によるもの。


 ――空中歩行。


 足裏にセンスを集め、蹴ることで可能とする技術。


 誰でも扱えるわけではなく、繊細なコントロールが必要。

 

 出力配分は1%。誤差は許されず、失敗すれば、光は凝固しない。


 ――センス操作の基礎。


 もたらされるメリットは計り知れない。


 戦闘面の押し引き、移動面の自由度の高さ。


 それだけではなく、特筆すべきなのは、補助面。


「今のあんたは……白き神、なんだよな。俺に一体なんの用だ?」


 行動に移す前に、抱えられる男は質問を始めた。


 抵抗する素振りはなく、疑問の解決を優先している。


 無視するのが、普通。手の内を晒すほど、馬鹿ではない。


 しかし、これからすることを考えれば、答える義務があった。


「――舞台装置(マクガフィン)。有り体に言えば、人質とさせていただきます」


 白き神は質問に答え、右手で印を結んだ。


 人差し指と中指を立て、他の指は握り込む所作。


 すると、男の四方は銀色に輝き、八方を囲んでいった。


 ◇◇◇ 


「――――」


 炎上する森の中を蓮麗は、全力で駆けている。


 闇雲に走ってるわけじゃなく、明確な根拠があった。


 ――センスの残滓。


 感覚系に属する蓮麗の感性は、鋭い。


 移動に用いられた光跡を辿ることができた。


 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。知る方法は様々。


 基本的には五感の一つ、最も得意とするもので判別する。


 ――蓮麗の場合は、視覚。


 光跡は微量ではあるものの、変化を見逃さない。


 白き神が通ったであろう道を、着実に進み続けていた。


「…………」


 しかし、順調だったはずの足取りは止まる。


 蓮麗は沈黙を貫いたまま、頭上を見つめていた。


 その視界の大部分は、焼ける枝葉で支配されている。


 ただ、蓮麗は変化を見逃さない。漂うのは、微量の銀光。


 埃や塵レベルの粒でありながら、確かに、存在を認識できた。


(来るネ……)


 蓮麗は声を漏らさず、静かに身構える。


 敵の意図は明確で、策を用意できたから来た。


 警戒するのは、能力の欠陥を補ったと思わしき奇襲。


 一番の本命は、収集品。銃火器によるルールに則った攻撃。


「――――」


 予想通り、空から降り立ったのは白き神だった。


 華麗に地面へと着地し、用意した策が明らかになる。


(そうきたカ……っっ)


 想像していたよりも、性質が悪い。


 道徳的にも倫理的にも、間違った手法。


 しかし、神には、人間の常識は通用しない。


 見えるのは、マイク。辺りは正方形に囲まれる。


 薄い銀光を放ち、中から拳を叩くがビクともしない。


 必死で何かを叫んでいる様子だが、声は全く聞こえない。


 特異な空間。現実離れしているが、既存の知識で理解できる。


 ――結界術。


 繊細な配分操作を極めた先にあるセンスの応用。


 特定の領域を、外部から隔離することが出来るもの。


 つまり白き神は、職場の同僚を結界に封じ、人質にした。


「酸欠まで一分。彼を解放して欲しくば、私に能力を披露してもらえますか?」


 すると相手は、非人道的な交渉を始めていた。


 恐らく、結界内の酸素は、火事の影響で薄いはず。

 

 一分という数字は、密閉状態が続くなら的確に思えた。


 こちらが何もしなければ、マイクは自然の摂理に殺される。


 神が直接手を下したというより、不慮の事故として処理される。


「この人でなしガ……」


 考えていた作戦を全て無に帰す、奇策。


 交渉に応じるか、それとも、別の策を考えるか。


 ――猶予は一分。


 限られた時間の中で、答えを出さなければいけなかった。


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