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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第100話 機械仕掛けの神

挿絵(By みてみん)




 響くのは静かな足音と、樹々が焼かれる音。


 炎上中の森を駆けるのは、褐色肌の少年だった。


 少年に自由意思はなく、内に宿る神が主導権を握る。


 ――直近に取った行動は、逃亡。


 中国系の女性。蓮麗から背を向けた形。


 彼女は魔神の契約者であり、推定有害の存在。


 使命から考えれば、最優先で処理したい相手だった。

 

 それなのに手を下せなかったのは、当然ながら理由がある。


『無害の相手は殺せないみたいネ。例え、魔神の契約者であっても』


 頭に浮かんだのは、蓮麗の言葉だった。


 端的でありながら、能力の本質を突いた答え。


 ――『機械仕掛けの神(デア・エクス・マキナ)


 白き神が秘めている、唯一にして絶対の力。


 相手の害意に反応し、一段階上回る力で迎撃する。


 そこに限界も上限もなく、受けに回るのなら無敵の能力。


 ――しかし、敵に害意がなければ発動しない。


 魔神の契約者だろうと、抵抗しないなら無辜の民。


 害悪な能力を秘めようと、表に出ないのなら裁けない。


 手の内を知られた以上、何か別の策を講じる必要があった。


「少年の力なら、先手は可能。……ただ本題は、魔神の能力を使わせること」


 拳を握り込み、白き神は思考をまとめる。


 少年が持つ能力は自由に使え、行動制限がない。


 ただ確実性に欠け、能力次第では敗北のリスクが伴う。


 確実に仕留めるには、攻めさせるのが一番堅実な方法だった。


「本気にさせるには、やはり……」

 

 思考を吟味した上でも、同じ結論に至る。


 光のない瞳を正面に向け、白き神は逃走を続けた。


 ◇◇◇


「こ、こっちです……」


 ひ弱な女性の案内の元、導かれるのは燃え盛る森。


 百害あって一利なしの状況に、マイクは直面していた。


 すでにルーカスは乗り気で、足を踏み入れようとしている。


「待て待て。疑うのは悪いが、罠じゃないだろうな」


 流されて同行するには、あまりに危険すぎる場所。


 彼女の人となりを知らない以上、突っかかるのが妥当。


 バトルフラッグのルールを考えれば、裏切る可能性が高い。


 進むにしても、それ相応の理由がなければ、行きたくなかった。


「こいつが、嘘泣きできる演技派女優に見えるか?」


 そこでルーカスが口にしたのは、仮定の質問。


 ふと一瞥すると、彼女の目元は赤く腫れている。

 

 告白して、振られて、落ち込んで、涙を流した痕。


 目線は合わず、下を向き、体はかすかに震えている。


「まぁ、無理だろうな……」


 表情や仕草を見るからに、嘘臭さは一切ない。


 もし、これが演技なら、ハリウッドの主演を張れる。


 人間性は知らないが、冷静に考えれば彼の言う通りだった。


「決まりだ。俺らは恋のキューピットと洒落込んでやろうぜ」


 ポンと肩を叩き、ルーカスは同行する理由を述べた。


 危険を冒すのは冒険やロマンじゃなく、メロドラマのため。


 人情味があると言えば聞こえはいいが、お人好しもいいところだ。


 バトルフラッグのことを考えれば、ここでハッキリ断ってやりたかった。


「いいか、裏方に徹するのは、これで最後にしてくれよ」


 ただ、こいつの人となりは嫌いじゃない。


 短い時間で人を惹きつける、『何か』があった。


「おっしゃ。旦那は話が分かるねぇ。一致団結したところで、早速――」


 言い出しっぺのルーカスは、上機嫌で指揮を執る。


 悪くないと心の中で感じつつ、その背中を追っていく。


 視線を燃える森に向け、同じ歩幅で歩みを進めようとした。


 ――しかし、その場にいた全員の足が止まる。


 そこには、森から現れた人物がいた。


 短い黒髪、褐色の肌、頬に刃物傷のある少年。


 彼女が告げた条件にピッタリとあてはまる、意中の人。


「正面から失礼」


 少年は堂々と言い放つと、身体を抱えられ、跳躍を果たした。

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