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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第二章 アフリカで両用戦?
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今回の作戦は

「お、なんだ早いな」

「サッド、お手々を引いて貰えないと満足に歩けもしない間抜け共のせいですよ。

 それより、顔色があまり良くない様に見えるんですけど大丈夫ですか」

「ああ、どうも手術してから三半規管の調子がいまいちでな。自分で操縦桿を握っていた頃はそれ程でもなかったんだが、どうにも酔いが抜けないよ」

 あ~サッド、かなり辛そうね。

 彼は、私の所属するPMSC(民間軍事警備会社)エアアーマー社の腕利きバイロットだったんだけど、以前受けた頭の腫瘍を摘出する手術の後遺症で今はヘリを降りて管理者として皆を率いているの。

 今の彼の様子を見るに、私の船酔いはまだましに思えるわ。そんな彼の後にハーレー、ロック、ラークシィ整備班長のいつもの面々が続く。

 そうこうする内に会議の開始時間が近づいて来た、ブリーフィング・ルームの椅子も8割が埋まっている。参加者は40人程度か、作戦に参加する他の艦艇からもわざわざこの船に集まって来ている様だ。今時リモート会議じゃ無く、直接顔を揃えているのは防諜の為らしい。

 最後に偉そうな人が入室して、会議が始まった。


          ◆


 作戦の内容は事前に知らされていた事項とほぼ変更は無かった。まあ当たり前か、その為に事前に装備を色々と準備してこの艦に乗り込んだのだ。

 と云うか、変更があるとすれば実際に作戦が開始されてからだろう、戦場はいつも混乱に満ちている。

 これからは、先程受けた作戦説明に基づいて最終的な認識の統一を行う所なの。場所は航空機格納庫甲板に隣接した一室で、今回は整備の皆も一緒よ。


「諸君、まず今回の作戦開始時刻が決定した。

 着上陸は払暁攻撃を追求し、第1陣達着(沿岸部への上陸)が明日の天明0602(午前6時2分)。我々もそれに合わせて現地上空に進出、電子戦を行う」

「ダーク、天明てんめいって?」

「日の出前だけど、砲兵部隊が着弾観測出来る程度の明度を確保できる時刻の事よ。

 だから、離陸はまだ夜明け前の真っ暗な中になるわ」

「あ~、そう云う事ですか。了解です」

 まあ、暗い中から動き出すのは野戦を行うヘリコプター部隊としてはいつもの事ね。むしろ今回は揚陸艦の格納庫を使える分よっぽど快適だわ。


「よし、それでは状況の再確認からだ。まあ、大きな変化は無いので簡単に済ますぞ。

 ベラランタ島に上陸した敵兵力は概ね3コ大隊規模と見積もられるが、現在は現地部隊との通信が途絶している状況の為、細部は不明。不確かながら民間から得た情報によると少数の戦車、装甲車も揚陸されているらしい」

「たしか、ベラランタ守備隊は守備隊と名前が付いてはいるが島にある空軍のレーダーサイトに駐留している1コ小隊規模の部隊だったよな」

「そうだ、国境の島にしては些か心許ない部隊規模だが、現地の自治体が軍の基地が有るとかえって敵の攻撃を受ける恐れがあるとの考えを持っていたのがその理由だそうだ」

「その自治体の首長って敵の息がかかってたんじゃない?」

「ま、とにかく現地部隊が戦力として残存しているかは、ほぼ絶望的って事か」

「うん、そう考えて良いだろう。

 さて、対する我が関係部隊だが、そういう訳で離島に対する所要の部隊の事前配置が無かった為、侵攻部隊に対する対着上陸作戦による早期撃破は失敗している。

 但し、現在は我々が海上及び航空優勢を獲得しており、敵の増援を阻止し孤立化が出来ている」

「うむ。今回の作戦、米軍はどの程度絡んでくるんだ」

「ああ、直接的な部隊行動の参加はほぼ無い。主に後方支援だがそちらにしても、あくまで主体はチナヌカマ軍だ」

「まあそうだろうな、ヨーロッパもアフリカもって訳には流石にいかぬだろうよ。

 最近は、アジアもきな臭くなってるから尚更だな」

「よし、肝心の着上陸戦闘だが、空中機動作戦と海上輸送による上陸作戦を同時に行う。

 そこで我々の任務だが、事前調整通り空中からの電子戦支援だ。まあ、いつも通り国際法に配慮した物言いになっているが実体はAEA(Air Electronic Attack:空中電子攻撃)となる」

「隊長、今回ARM(Anti Radiation Missile:対レーダーミサイル)は準備してきておりませんが、これも計画通りSEAD(Supprssion Enemy Air Defence:シード 敵防空網制圧)では物理的破壊よりも機能の無力化を重視すると云う事で宜しいでしょうか」

「ああ、その通りだ。基本方針として、直接的な戦闘は行わない。

 可能な限りではあるがな」

「了解です。では兵装もスタブ・ウイングにはECMポッドと増槽を準備します」

 スタブ・ウイングとはスタビライザー・ウイングの略語で、胴体側面に付いている小翼の事である。ウイングと名が付いてはいるが、固定翼のそれとは違い揚力の発生は限定的で主な機能は兵装等の搭載にある。スタブ・ウイングには、左右それぞれにインボード、アウトボード、ウイング・チップの3カ所にエジェクター・ラックが備わっており、今回の出撃の様に電子戦用のポッドや各種ミサイル、ロケット・ポッド、増槽タンク等を任務に合わせた組み合わせで装備する事が出来る。


「それで頼む。

 話がやや逸れたが、出撃編成。

 1番機、ハーレー/ダーク

 2番機、ジュリエット/プリンス

 状況により3番機として、マジック/スージー」

「あ~、マジックとスージーか。奴らは今どうなってるんだ?」


 今ここには居ない二人、同じエアアーマー社のパイロットのマジックとスージーは、元々我が社の営業の一環としてこの国に派遣されていたのだが、今回の紛争発生を機に本土の中央司令部に於いて、なし崩し的に作戦部隊と我々、及びその上級司令部とのLO(Liaison Officer:連絡・調整将校)的なポジションを担わされているらしい。


「二人とも操縦の腕も立つが、口も達者だからな。どうやら余程気に入られたらしく、この分だと明日の出撃には間に合わないだろう」

「ま、仕方無いか」

「まったく、何やってんだか。ただでさえパイロットの充足が低いって云うのに、あのバグ・ファッ●ー共」

「今回も会えず仕舞いになりそうですね~、残念」

 そうなのよ。この二人とはなんだかんだで、この会社に入ってからまだ一度も顔を合わせた事が無いの。ダークに云わせれば二人とも、うざいおっさんらしいけど。


「俺は、地上(艦上)指揮。ロックは予備として待機」

 うん、予備は大切。

大抵どんな作戦でも指揮官は予備隊を確保してる筈。予備隊を編成していない作戦案を幕僚が提出して来たなら、通常の指揮官は一発で却下するだろう。なぜなら戦場では往々にして、起きて欲しくない事が起きて欲しくないタイミングで起きるから。

 例えば攻撃の場合は戦果の拡張や主攻撃への増援に、防御の場合は逆襲や対空挺・ヘリボン攻撃にと、作戦・戦闘が予期しない状況に遭遇した場合や乗ずるべき好機を看破した場合など、機を失することなく柔軟に対処しなければならない場面が必ず発生するからだ。

 予備は、余裕とも言える。もし、余裕を無駄と断じて無くしてしまったら不測の事態が起こった場合、全てが現場の頑張りに頼る事になり、あっという間に作戦は破綻してしまうだろう。

 こんな事は、別に軍事作戦にだけ言える事ではないと思う。願わくば皆さんが所属している組織が健全で有らん事を。


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