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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第3部「アンフィビアス」 第一章 エマージェンシー・プロシージャー
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ロックの手本

「よし、今度はワシにやらせてくれ。アイハブ」

 相互練成だから、今度はロックが操縦する番って訳ね。

「はい、ユーハブ」

 ロックの操縦でトラフィック・パターン(場周経路)を飛行したサーペントは、再び1000ft、100ktの進入諸元でファイナル(最終進入経路)を進む。

「接地目標、オートロ・エリア中央」

 私が設定した進入ポイントはとっくに通り過ぎてるけど、ロックはまだ1000ftで水平飛行を続けている。

 いくら何でも、課目開始のタイミングが遅すぎる。オートロ・エリアの中央を目標にしてるけど、これじゃあオートロ・エリアそのものを飛び越してしまうんじゃないだろうか。

「進入、今~。

 ピッチ最低、フライト・アイドル、減速。

 ボール・センター、ローター、ミドル・グリーン。

 N1、71%。

 80ktチェック、姿勢セット」

 ようやく課目を開始したロックは、それでも至ってスムーズにオートロの降下姿勢を確立する。

「目測、オーバー」

 ほら、言わんこっちゃない。このままじゃオートロ・エリアにすら入らない、課目を中止してゴー・アラウンド(着陸復航)するしかないわ。

「目測修正、経路を右に振る」

 ロックはそう宣言するや否や、機体を右旋回に入れる。

 そうか、その手があったか。

 直進した場合では高度を処理する為の距離が足りなくても、経路を一旦右に振った後に又戻せばその分だけ長い距離を飛ぶ事になる。そうすれば、降下率や速度を大きく変えずとも正しい目測へと持っていく事が出来るだろう。

 どの位大回りするかは、修正が必要な量によって決めればいいし、経路も状況に合わせてS字を描いたり、自由に選べる。勿論、速度を変化させて降下率を調整する方法と合わせても良いだろう。

「目測修正、良し」

 正しい軸線に戻った時、機体は接地目標への正しいパス角に乗っていた。

「200ftチェック、フレア~」

 機首を引き上げてノーズ・アップの姿勢を取ると、目に見えて前進速度と降下率が減少して行く。

私も自分が操縦してるイメージでタイミングを計る、所謂〈見取り稽古〉と云うヤツだ。

「沈んで、イニシャル」

 イニシャル・ピッチを使うタイミングは、私の場合機体の沈みを感じたとほぼ同時なのだけれど、ロックはそれよりホンの一瞬だけ遅らせていた。テールが気になって、お尻がムズムズする。

「スキッド・レベル

 ピーッチ」

 更に機体を水平スキッド・レベルに戻し、最後の接地に合わせて行うコレクティブ操作がまた絶妙だった。

 私の時は接地時に前進速度がまだ残っていたので、目標に接地した後も1~2機長程滑走したけれど、ロックの操縦する機体は、当初の目測通りオートロ・エリアの中央に接地した後は、ほとんど滑る事無くその場に停止した。

 つまり私の場合、安全に降りる為にはある程度大きさの有る地積が必要になるのに対して、ロックにはサーペントの機体とほぼ同程度の平地さえあれば大丈夫と云う事なのだ。

「ロック、凄いですね。

 私はオートロ・エリアの中に降りるだけで精一杯なのに、目測を修正した上でピンポイントに接地出来るなんて」

「おお、ワシが何年パイロットをやってると思ってるんだ。お前さんが生まれる前から操縦桿を握ってるんだ、これ位の芸当が出来んでは逆に恥ずかしいわ」

「芸当って」

「まあ、接地の際に機体を滑らせない要領をマスターしていれば、それが判断の余裕を生むのは確かだが。

 だからと云って、滑らせるやり方が間違ってるって訳でも無いぞ」

「え、そうなんですか」

「フレアー後の最終的な垂直降下と接地を安全に行うには、ある程度の前進速度を持っていた方が推力が残って簡単だ」

「推力が残る?」

「分からんか、ホバ・オートとタクシー・オートロを比べれば違いは明確だろう」

「ああ~。確かに、そうですね」

 ホバ・オートとはホバリング状態からスロットルを絞って接地するオートローテーションの一種で、タクシー・オートロも同じくエアタクシーからのオートローテーションの事よ。

「そう言えば、50ft以上でホバリングしている場合のエンジン出力低下からの回避も、サイクリック・ステッィクを突いてノーズ・ダウンにして、前進速度を獲得するんでした」

「そう云うこった」

「でも、目測の修正を経路で実施するのは目から鱗でした。

 よく考えたら旋回オートロの180°(ワン・エイティ)も360°(スリー・シックスティ)も経路による修正ですよね」

「基本は大事だが、その操作の意味する所を理解すれば、自ずと応用も出来るっちゅう訳だな」

「はい」

「但し目測修正には注意が必要な事があるぞ。

それは、修正にはタイムリミットが有ると云う事だ」

「タイムリミットですか」

「そうだ。オートローテーションによって最終的に安全な接地を果たすには、フレアー効果を最大限に引き出せるある一点へと機体を持って行かなければならない事は分かるな」

「そうですね。最小降下率速度を切ったり、フレアー開始高度を下回ったりしたら……」

「うむ。フレアーを開始する時点で理想的な高度と速度になっていなければ、いくら目測が正しく修正出来たとしても、その後の操作が連鎖的に破綻し重大な事故へと至るっちゅう事だな」


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