オートローテーションその1
前回の更新から1年以上間が空いてしましましたが、匍匐飛行 第3部 「アンフィビアス」開始します。
私はそれをせずには居られなかった。
即ち飛ぶ事であり、翼を失って後は書く事である。
夜間空母着艦で着艦した途端、私はいつもハーネスで縛り付けられているこの素晴らしいマシーンに対する強い愛情に駆られたものである。必死になって危険な時をかいくぐってきた私と飛行機は、一個の複合体のようになって、共に素晴らしい達成感や大きな安堵感を味わうようになるのである。分かち合った危険が、長き友情の絆となる。だから、たとえ飛行機がどんなに調子が悪かったり、無様だったり、言う事を聞かなかったりしたとしても、危険をくぐり抜けてきたパイロットは、飛行機を愛する様になるのである。
米海軍 少将 ポール・T・ギルクリスト
「レントンタワー、サーペント54。ターニング・ベース トゥ オートローテーション・エリア ストップ・アンド・ゴー」(レントン管制塔へ、こちらサーペント54号です。場周経路で第3旋回中、着陸点はオートローテーション・エリア、接地した後に再び離陸します。)
『サーペント54、レントンタワー。クリアド トゥ ラン。ウィンド 350アット12』(サーペント54号へ、着陸を許可します。飛行場の風は350°12ノットです。)
「サーペント54」(サーペント54号、了解です。)
はいコンニチハ~、左沢熊でっす。
今日はホームベースのレントン飛行場で訓練飛行なのよ。課目は【緊急操作】、つまり緊急事態を想定した訓練ね。緊急事態って言っても色々あるわ、例えばハイドロ・アウト(油圧系統故障)やテール・ローター故障とかね。
で、今はオートローテーションの訓練中って訳。
オートローテーションって何だっけ? って思ってる人もいるかも。以前にも説明したけど、まあもう一度簡単におさらいしときましょうか。
オートローテーションはエンジンが故障した時に安全に着陸する為の飛行要領よ。
ヘリコプターって頭の上で大きな翼(メイン・ローター)が回ってて、それで揚力を生み出し飛行してるのは知ってるでしょ。勿論メイン・ローターを駆動しているのはエンジンなんだけど、もし、そのエンジンが故障して止まっちゃったとして、それと一緒にメイン・ローターも止まっちゃったらヘリは即墜落してしまうわ。
最悪よね~。でも、そうならない様な機構がヘリには備わってるの。皆が普段乗ってる自転車のペダルと車輪の関係を思い出して、ペダルを漕いでいる時がエンジンが動いている時よ。でもって、ペダルを漕ぐのを止めたらどう?
それでも車輪は回り続けるわよね。ヘリも同じよ、エンジンとトランスミッションを繋いでいるクラッチが切れてメイン・ローターは回転を続けるの。
後は、降下しながら辿り着ける範囲に安全に着陸できる場所を選定して降りる、それがオートローテーションよ。
「課目オートローテーション。接地目標オートロ・エリア手前1/3。進入諸元1000ft、100kt」
私はクルーに向かって訓練内容を発唱する。
私が操縦するヘリ〈AH―69サーペント〉は二人乗りの戦闘ヘリだ、従って任務はクルー相互の連携が重要となる。しかし、今回の様な訓練飛行の場合は必要最低限のアシスト以外は習技者一人で操縦を行うのが普通である。
今日のクルー編成は機長が私、左沢熊。副操縦士がロックよ。
従来の戦闘ヘリは前と後の席で出来る事に違いがあって、自ずと機長と副操縦士の位置が決まっていたんだけど、サーペントではその差を無くし任意の位置を選択出来る様になっているわ。因みに今日の私は、前席に座っている。
後席に収まっているロックはと言えば、その年齢は50をとうに過ぎていてパイロットとしても30年以上の経験を持っている大ベテランだ。大ベテランでは有るのだが、ことサーペントに限って言えば、ロックの飛行時間がまだ数10時間なので私が機長、彼が副操縦士という逆転現象が起きている。
そんな訳だが、後席に鎮座する彼は至ってのんびり構えており、私としてはやりにくい事この上ない。さっさと規定の時間をクリアして機長資格を取って貰いたいものだ。
「了解、ジュリエット」
ロックが呼びかけるジュリエットとは私のタック・ネームよ。
タック・ネームとはパイロット同士が空中で呼び合う、あだ名の様な物ね。無線交信で言いやすい2音節から3音節位の比較的短い単語が選ばれる事が多いみたい。ロックの場合はちょっと特殊でタック・ネームはロックなんだけど、本名の方は不詳で通称Mr.ハイパワーで通してるわ。若い時からヘリコプターパイロットの傭兵として生きてきた事は、周知の事実なんだけどね……。
週1~2回の更新を目指して頑張ります。
どうか最後までお付き合い下さい。




