プリンス? プリンセス?
AAR(訓練終了後の分析検討会)も終了すれば、私達の仕事はもう終わりよ。昨夜、私達が指揮所で資料を作成してる間も、整備班の皆は帰国出来る態勢を整えてたわ。
野外に展開してた訳じゃ無く、飛行場内で既存の施設を使わせてもらってたってのも有るけど、撤収の手際の良さは流石ってカンジね。余裕が出来た時間で、現地部隊の人達と色んな交流までしてたみたい、いつの間に仲良くなったのかしら。
そんな帰国まであと数日というタイミングで、派遣された全員に丸一日現地休暇が与えられた。
部隊の皆がそれぞれ外出したり、宿舎でゆっくり寛いだり、思い思いに楽しんだ様である。
私とダークはプリンスの案内で最寄りの街へちょっとした観光へと出かけた。
ダークは足首まで有るゾロリとしたスカートに細身のジャケットを合わせてる、どちらも凄くシンプルなデザインとシルエットだ。フェミニンなんだか、マニッシュなんだか分からないけどそれが却ってダークの美貌を引き立たせてる。
うん、ついつい忘れちゃうけどダークってホント美人なのよね~。口を開いた途端、残念とがっかりが勝っちゃうんだけど。
プリンスはと言えば、フレアのミニスカートに足にぴったりとしたスキニ―パンツを合わせて、上はデニムのジャケット。ガーリーだけど防御力はマシマシってカンジね。
「ああ~っ!」
「どうしたジュリエット、おしっこでも漏らしたか」
「それ、一生言うつもりね」
「お前ら、下品な言動は慎め。ここは駐屯地では無いんだぞ」
「下品なのはダークだけですう~。
ってか、地元民のプリンスはともかくダーク。あんたなんでそんな外出着持って来てるのよ」
「は?当たり前でしょ。
いつサッド隊長とお出かけ出来るか分かんないんだから、数少ないチャンスは絶対逃せないわ。
それなのに… 隊長ってば、折角の休暇に現地軍の偉いさんと会うなんて」
「まあ隊長だって仕事じゃ無かったら、ダークの誘いに乗ったんじゃない。分かんないけど。
それより私服よ、し・ふ・く。外出着が必要になるなんて、言われなくちゃ分かんないわよう」
「いや、似合ってるよ。そのジャージ」
「あ~、嬉しくない。ぜんっ全嬉しくない!」
「別に飛行服でも良かったでしょ、普通の国じゃ軍人は尊敬されるわよ。
あ、この国じゃトラブルの元か」
「そうよ!ジャージだって大概だけど、飛行服との二択だったら選択の余地は無いでしょ。
ってか、そもそも私軍人じゃ無いしぃ」
とはいえ。まあ恰好は芋ジャージだったけど、外出自体はとっても楽しかったわ。
郷土料理の串焼き(たしか名前はシャシリク)も美味しかったし、何と言ってもプロフね!お米とにんにくとお肉。
久しぶりに美味しいお米の料理を堪能したわ、お肉が羊だったのもポイント高しよ、ウチの地元じゃ羊肉って結構ポピュラーだったから懐かしさもあって数倍は美味しかったわ。
ま、結局色気より食い気が勝ったって事ね。
「あっ、あそこに居るのって」
食事を終えて店を出た私達は、偶然サッド隊長を見つけた。通りを挟んだ向かい側にあるレストランに向っているようだ。
ダークの話の通り、軍服を着た数人と連れ立っている。私達が今出てきた庶民的なお店と違っていかにも高級そうなお店だけど、仕事の延長じゃあきっと楽しめないわよね。
ダークもさすがに邪魔をしちゃダメな空気を読んだみたい。
その場をやり過ごそうとした私達だったけど、何故か向こうの偉いさんの方がこっちに気付いたみたい。
「ラーナ」
中でも、ひと際偉そうな人が私達へ呼びかけてきたわ。
ラーナ?
ん?
「お父様、…どうしてここに」
え、プリンス。あ~、そうだったわ。私達って何時もタックネームで呼び合ってるから咄嗟には本名が出てこないのよね。
確か、プリンスの名前ってスヴェトラーナだったわ。
でも、親子の再会にしてはプリンスの様子はちょっとぎこちないわね。
サッド隊長を含む軍人集団は、そのまま私達の方へとやって来る。こんな状況だけどダークは隊長に会えて嬉しそうだわ、さりげなく隊長の隣に移動してる。全くブレないわね~。
「ラーナ、お前は未だにアルマトフ大佐に迷惑を掛けているらしいな。もう、そんな歳では無いだろうに、いい加減我儘は終わりにしなさい」
「お言葉ですが父様、」
「ああ、お前の意見は聞いていない。いいから軍も辞めて家に戻れ、もう十分だろう」
「いいえ、私は軍人としてもパイロットとしてもまだまだ未熟です。この道を更に…」
「下らない。この国にいる限り女が外の仕事で貢献出来る事など何もない。
ああ、それとお前に余計な事を吹き込んでいたあの男は、契約を打ち切って国外へ退去して貰ったからな」
え、それってロックの事? そう言えば演習が終わってからも全く姿を見なかったけど、そう云う事? ホントだとしたら酷い話だわ。
「そんなっ、本当ですか!」
「分かったら、もう行け。話は終わりだ」
「お父様!」
「皆、済まない。待たせたね、では行こうか」
「お父様っ、待って下さい」
「姫さま、御父上の立場もあります。お気持ちを察して頂きたい」
え~、今この執事っぽい人プリンスの事を姫さまって呼んだ?
プリンスってホントはプリンセスって事なの。
ってか、隊長を含めたおっさん集団はそのまま何事も無かったかの様に居なくなっちゃった。後には、どんよりとした気まずい空気だけが残ってるわ。
「ダーク、ジュリエット、済まない…。ウチの親父は何時もあんな感じなんだ」
「そう、あなたも大変ね」
「ねえ、ロックの姿が見えなかったのって」
「僕も変だとは思っていたんだけど、多分そうだと思う。帰ってから確認してみるよ」
「ねえ、プリンス。今更だけど、あなたのお父さんって何者なの」
「ああ、ウチの家系はかなり遠いんだけど一応は王族に連なってるんだ。父は陸軍の将官で今は中央にいる、部署は確か省庁と予算の折衝をする所だったと思う。
だから僕にも王位継承権が有るんだけど、数えるのも馬鹿らしいくらい低い順位だよ、実家にいた時は使用人から姫なんて呼ばれてたけど、別に本当にお姫様だった訳じゃ無いんだ。慣習的にそう呼ばれてただけだよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「まあ娘が可愛いって事は間違い無いんだろうけど、方向性がねえ」
「よし、決めた…
僕は軍を辞める」
「え~、ちょっと。そんな簡単に、それでいいの、プリンス?」
「そうよ、あなた今言ってたでしょ。この道を極めたいって、辞めてどうするの」
「父の言う通りなんだ、この国に居たんじゃ先の見通しはどうにもならない。それはもう動かしようの無い事実なんだ。
軍での居場所にしたって…」
「なる程ねえ」
「それに、これは思い付きでは無いんだ。
この国の状況はまあ、こんな感じだからね。今までも軍を辞職する事を考えた事も正直何度かあったんだよ」
「で、何か考えは有るの」
「父には、僕が軍を辞めた後は家に入ると思わせておく。
ちょっと小耳に挟んだんだけど、君たちの会社はパイロットが不足してるんだろ。
一番良いのは、君たちの帰国に合わせて一緒に出国する事だけど、無理なら後から追いかけるよ」
「私はプリンスが来てくれたら嬉しいけど」
「そうね、私もあなた位の腕なら歓迎よ。でも軍を急に辞めるなんて無理なんじゃないの。
士官クラスの辞職って一般的には国防大臣級の承認が必要でしょ」
「いや、僕は准尉だからね。大臣の承認は必要ないと思う。それでも方面軍の司令官に許可を取る必要はあるんだけど…
ただ、幸い父は僕が軍を辞める事を望んでる。父なら色んな伝手を使って、本来なら数か月を要する手続きを僕の気が変わらない内に済ませる位はやると思う」
「後気がかりな点が有るとしたら、ウチの会社がどう判断するかね。確かに私達は慢性的にパイロット不足なんだけど、あなたの父上との関係も踏まえて、上がリスクをどう考えるかよね」
「そうだな、まず派遣隊の指揮官であるサッド…あ~、バッツ隊長に相談してみよう」
「それが良いわ。
まあ、そうで無くてもあなたには相応の準備が必要でしょ。
少なくとも陸軍で准尉の階級を得ているんだから、周りに迷惑だけは掛けじゃ駄目よ」
「うん。それに関しては、まあ。
元々、色々とあって部隊では孤立してたから…
ロックが居ない今大きな問題は無いと思う」




