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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第六章 行雲流水
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女子会

 演習終了から一夜明けて実施されたAAR(訓練終了後の分析検討会)には、私達ヘリコプター部隊からはサッド隊長とフォーメーション・リーダーのハーレーだけが参加する事になった。

 AARへ演習部隊から参加する者は基本、各級指揮官や幕僚クラスである。つまり部隊を運用する立場の人間だ。

 一方統裁部の人員は基本、補助官は全員参加だし本来であれば対抗部隊のパイロットも皆参加して質疑応答に備えるのだが、今回はこの国の文化的理由を尊重した様でダーク以下はお留守番だ。ダーク以下って事は、参加人員で実際に飛行したパイロットはハーレーだけになっちゃうんだけどね。

 なんか今一納得し難い気持ちも有るけど、面倒事はすべてハーレー一人に押し付けたって事で良しとしますか。

 向こうの戦車部隊もまあ、事前の顔合わせであれだけ大口を叩いておいて1コ大隊が撃破されたんじゃ面目が立たないのも分かるけどね。私達への態度は置いておくとして、準備した資料等が無駄にならない様、そしてこの訓練が実りのある物で有る様に祈るばかりだわ。

 さて、残ったパイロットのメンバーはこれから女子会だ。

 あ、嘘嘘。昨日まとめたAAR資料は、演習部隊に対する物だったけど、今日は私達自身の為の振り返りをしようって訳。

 まあ、お茶とお菓子付きのリラックスした態勢だから女子会って言い張っても、ギリ許されるかもだけど。


「ジュリエット、あんた初っ端から大破させられたけど。そこんトコどうだったの」

 うっ、ダーク。

 まあ、そこを明らかにしない訳には行かないわよね。

「あれって砲撃ですよね、無理ですよ。

 例えば実弾みたいに至近弾の炸裂なんかが目視出来れば別ですけど、統裁部からの無線指示で被弾なんて」

「そうだよな。もし回避出来たとしたら、最初にOP(観測員)を見つけられた場合だけだろ」

 一緒にコクピットに居たプリンスも同意見だ。

「ふ~ん。で、どうなの。LZ(ランディング・ゾーン)適地なんだから敵にしても何らかの対処をしてるかもって考えはあった?」

「あ~、正直それは考えて無かったですけど。

 でも、偵察車両だったらともかく完全に偽装した人員を空中から見つけるのって無理ですよ、絶対」

 言い訳か現状認識かは微妙な所だけど、意思表明はしないとね。

「まあ、そりゃそうね。OPだってただのピス●ッドじゃないわ、単に地面に伏せてる訳無いし、絶対に穴に潜ってるわ。偽装網だってIR(赤外線)対策がされてるだろうしね」

 今のカモフラージュ用のマテリアルって視覚的な迷彩効果の他に、赤外線輻射が自然の植生と同じになる様に作られてるのよ。

「そうですよ。まあだからと言って、運で片付けちゃったらその後が続かないですけど」

「対策って何かあるかしら」

 対策か~、ダークは何か腹案が有りそうだけど。

「先に見つけられなかったんなら、後は撃たれた後の素早い対処じゃないか。事前に離脱の方向とかの腹案を持ってるのは、まあ当然として」

 プリンス、それは対策って言うよりじ後の対応よ。

「そうね、F●●Kされる可能性を常に念頭に置いとくって事ね」

「後は、この場面に限らないけどFP(射撃位置)変換を適宜実施する事かな。歩兵じゃ無いけど、〈射撃と運動〉これ大事」

 プリンスとダーク。軍人と元軍人、何か共通認識が有るみたいね。

 射撃と運動、メモメモ。

「全くその通りね。基本基礎の徹底、言葉じゃ簡単だけどつい効率なんかを優先しがちだわ。射撃に適したポイントは限られてるから、一度占位した場所に固執しちゃうのは分かるし、逆に移動する事で敵に発見される可能性も有る。

 起こって欲しく無い事は必ず最悪のタイミングで起きるって思う事ね」

「それにしたって、あいつらやっぱり模擬交戦装置の受感部に細工してましたね~」

「まあ、ジッ●ヘッ●共は偽装材料がたまたま覆いかぶさったって言い訳してるらしいけどね」

「全車両に」

「そう、全車両に」

「情けない。訓練で汗を流さなかったら、実戦で血を流すって分からないのかな」

 プリンスにとっては身内の話だし、尚更よね。

「ま、今回の演習で身を以て理解したでしょ。その為の訓練なんだから、いいんじゃない」

「でも、今回は統裁部が撃破の判定を下したけど、スモークって結構厄介だったね」

「うん、特に夜間だったから煙が滞留しちゃってたわよね」

 ダークの機転で模擬交戦装置の代わりにLRF(レーザー・レンジ・ファインダー)を使って戦果確認を行ったけど、そうじゃ無かったらどうなってたのかしら。

「スモークに関しては、こちらへの直接的な脅威じゃ無いけど、その辺はどう感じた?」

「そうね、結局問題は時間って事かな。敵もずっとスモークの陰に隠れてる訳にはいかないでしょうからね」

「うん。但し、時間は僕たちにも影響を与えるよ」

「燃料ね、戦場在空時間かあ。

 確かに、一旦地上に降りてアイドル待機って方法を使えば燃料消費を抑える事も出来なくは無いけど」

「それでも一機は上空に置いて戦場を監視しとかなきゃ、再攻撃のタイミングを失しちゃう可能性があるよ」

「今回はFARP(ファープ:燃料・弾薬再補給点)が使えたから良かったけど、燃料管理はシビアな問題ね。

 いい機会だから、もう少しFARPについて考えましょうか。

 そうね、例えばFARP班の派遣について」

「派遣?」

「そうよ。私達は準備されたFARPに降りてサービスを受けるだけだけど、その辺りからね」

「まあ、そりゃ燃料や弾薬の準備とか色々と大変でしょうけど」

「FARPが派遣される場所って何処かしら?」

「戦闘地域と展開地の間だろ」

 プリンスもこの件に関しては、余りピンと来てない様ね。まあ、この国では陸軍航空隊が冷遇されて来たって歴史が有るから無理も無いか。

「そうね。では、時期はどう?」

「え~と、戦闘中?」

 だよね、だってその為の再補給点なんだから。

「ああ、タイミングの問題なのか」

 ちっプリンスめ、何に気付いた。

「タイミング?」

 悔しいけど、私にはまだ理解が追い付かない。

「そうさ、戦闘中ってお前も自分で言ってだだろ。戦闘って自分達の戦闘だぜ、ヘリコプター火力戦闘」

「ああ~、分かった。FARPの開設するタイミングってヘリコプターの作戦テンポに合わせなくちゃなんないって事ね。

 でも、それって普通じゃない?」

「ジュリエット、あなた今回は機長だったんだからFARPでは機体を降りたわよね」

 ん~? 又話が飛んだ?

「そうですけど、最新の状況確認や臨時任務の計画やらをハーレーとやりました」

「何処で?」

「無線車両の中です」

「ああっ、移動の足か」

 またプリンスかっ。私は話の着地点すら見えて無いのに、もう。

「ジュリエット、僕たちは普段から空中での移動に慣れてるから忘れがちだけど、ヘリでは10数分の移動距離でも車両を使えば1時間以上掛かるだろ」

「? つまり」

「つまり、僕たちが必要とするタイミングで補給を受ける為には、僕たちが離陸する前にはFARP班は展開地を出発してなきゃならないって事だよ」

「そう云う事よ。

 FARPの派遣は作戦計画の立案段階で決定されなければならないの。

 戦闘中に急遽補給が欲しいって言っても、間に合わないって事。

 因みに、大型の輸送ヘリを複数機使った空中FARPってのも可能だけど、その場合だって輸送ヘリ部隊とのクソ程面倒な事前調整が必要になるわ。開設ポイントへと進出する為の時間的な制約は緩和されるけど、それ程簡単な話では無いの」

「う~ん。確かに、気安くラーメンの出前を取るって訳には行かないって事か~」

「ラーメン?」

「もうっ、ピザのデリバリーの方が分かりやすい?

 私はラーメンが好きなの、ウチの田舎はラーメンの消費量が半端ないんだから」

「ラーメンってチャイナの料理じゃないのか、ジュリエットはジャパニーズだろ」

「ラーメンとカレーは日本の国民食よ」

「カレーはインドじゃ…」

「はいはい、話を戻すわよ。

 さっき一旦スルーしたけど、派遣する場所についての考慮事項って何?」

「FARP開設の目的が、戦場在空時間の延長なんだから前線から余り遠くない場所になるんじゃないか」

「そうね。FARPを起点に再出撃する事で攻撃機会を増やすって目的の為にも、ある程度は前線に近い場所を選定する事になるわ。

 だからFARP派遣班は、それだけ危険に近づく事になるのよ。つまり、FARP派遣班はただ単に再補給の準備だけしていれば良いと云う訳にはいかないの」

「自衛の為の準備も必要か~。単なる野外補給以上の過酷な任務ね」

 FARP班長のトーシュカ先任がのほほんとしてたから、なんか誤解してたわ。

「FARP班の自衛戦闘は自分達を守る為だけじゃ無いわよ」

「僕たち攻撃ヘリが戦闘力を発揮できるのは、空中に於いてって事だね」

「その通り、地上にいるヘリコプター程脆弱な存在は無いわ。だからFARP班は直接的な戦闘以外にも、出来るだけ速やかに再補給を完了させてヘリを空に上げる為、補給作業の腕を磨いているのよ。

 理想を言えば、ヘリが補給に降りて来る直前に開設が完了して、補給後は速やかに撤収する事ね」

「うん、そうだね。

 その為、FARPでの燃・弾再補給は、エンジンを回しっぱなしで行うホット・リフューエル/ホット・リアームだろうし、そこに通常の飛行場での作業とは又違った難しさも有る」

「確かに。エンジンやローターの騒音の中じゃ通常の会話は出来ないから、ハンドシグナルによる無声指揮に整備員も私達も習熟してる必要があるわ」

「分かったかしら。当たり前の事だけど、ヘリコプターがその能力を十分に発揮するには、操縦するパイロットだけでは無く地上の整備員やその他色々なクルーとの連携が非常に重要となるの」

 ヘリコプター部隊では一口に航空機整備員と言っても、攻撃ヘリ、偵察ヘリ、輸送ヘリ、多用途ヘリとそれぞれの部隊の特色に合わせた技能が求められるという訳である。

 一般に陸軍航空隊は戦闘支援職種にカテゴライズされるのだけど、攻撃ヘリの部隊だけは戦闘職種(火力戦闘部隊)に分類されるのよ。その矜持はパイロットは勿論、当然整備の人達も同じだわ。


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