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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第五章 連 戦
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奏者=操縦士

「ジュリエット、敵に動きが」

「うん、こっちも確認した」

 ホールディングを始めて10分位か、目標の敵砲兵部隊に初めて動きが見えた。と言っても、実際に移動を始めた訳では無く自走榴弾砲のエンジンが始動し始めた兆候がIR(赤外線)画像で確認されたのだ。併せて、車両周辺でも人の動きが活発になっている、移動の為かはたまた射撃の為か。

「ハーレー」

『おう、了解だ。統裁部へ報告する、お前達はそのままホールドを続行。

 いいか二人とも、両方が同じ目標を見てるんじゃないぞ、一人は周辺の索敵を怠るな』

「4」(フォー、了解)

 ハーレーへの返答が終わるや否やプリンスから報告が入る。

「ジュリエット! 新たな部隊だ。目標に向かってる、合流するつもりかも」

 ええっ、今このタイミングなの!

「何処?」

「ここだ、今僕が見てるトコ」

 サーペントは前席と後席がお互いに何処を見ているのか、視線の向いている方向を知らせる機能が有る。攻撃の際に目標授受をスムーズに行う為だ。

 ヘルメット・バイザーに映し出された十字のLOS(Line Of Sight:照準線 ロス)キューがそれである。

「戦車ね。数はぱっと見、小隊以上か」

 油断してた訳じゃ無いけど、こんな近くに来る迄気が付かなかったなんて。夜間だからお互い様か、こちらは無灯火で飛行してるから目視では発見されて無いとは思うけど、どうだろ。

 でもまあそんな事だ。得てして起こって欲しくない事は、起こって欲しくないタイミングでやって来る。混乱は戦場の常、いつも通りって事よ。

「ハーレー!」

『こっちも確認したわ、盛り上がって来たわね。よだれがでそうよ』

 返答はダークからだ。流石ベテランだわ、本心かどうかはともかく落ち着いてる。

『統裁部、こちらサーペントだ。

 敵情について報告する、敵砲兵部隊に移動或いは射撃の兆候有り。又、新たに別の部隊が接近中。接近中の部隊は戦車を主体とする10数両の機甲戦力』

 ハーレーはハーレーで編隊長として、統裁部とコンタクトを取っている。

 うん、これが映画なら面白くなって来たって思うべき場面ね。



 今ここに現れた新たな敵部隊とは、実は予備隊として編成し直された第3大隊の残存部隊であった。

 ジュリエット達の攻撃により大幅に数を減らされた大隊は小隊規模にまで数を減らした結果、後方に下げられ当面は連隊砲兵と行動を共にして護衛役を兼ねよとの命令を受け、配置に付くための移動中であった。


「不味いぞ。敵の接近経路、こっちの近くを通りそうだ」

 プリンスの言う通り、敵部隊は地形に沿っての移動なのか、経路をこちらへと曲げて真っすぐ近づいて来る。

「取り敢えず移動するわ、そっちは見張りをお願い」

「イエス、マム」

 私は左手に握るコレクティブ・レバーを下へと押し込むと同時に右手のサイクリック・ステッィクを後方へと引き付ける。その操作によって機体は急減速と同時に地表面付近迄降下する。減速操作の結果、不用意に高度が上がらない様にコレクティブの操作を先行させるのがコツだ。機体は私の操作に違わず、敵の針路上から離れる様に機動する。

 実は今、私の頭の中には機体を操縦していると云う意識は存在していない。こう飛びたい、こんな風に機体を持っていきたい。そう考えると、手足が自然と機体をその様に操るのだ。

 例えばピアニストが音楽を奏でる時。楽譜を見ながら、どの鍵盤をどの指で叩くのかを一々頭で考えないのと同じ事だ。楽器奏者が楽譜上の音符や、頭の中の音のイメージを実際のメロディーとして表現する時と同様に、パイロットが機体を操る時、手足の使い方を一々頭で考えて操縦してはいない。

 勿論、最初からそんな事が出来た訳では無い。日々のフライトを全身全霊を持って取り組んだ結果として、ある日突然それが出来ている事に気が付くのだ。


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