表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第五章 連 戦
80/106

戦車連隊の指揮幕僚活動

「連隊長、第1大隊です。尖兵中隊を収容、敵との間合いを切る事に成功、このまま後方へ突進します」

「よし、よくやった。本隊も追随する」

 敵の前衛と接触した第1大隊には迂回を命令している。連隊の目標は敵後方を続行していると思われる兵站部隊だ。

 第1大隊の直接支援を命じた連隊直轄の砲兵も、しっかり仕事をした様で結構である。

 とにかく敵に過早に食い付かれ、お互いの尻尾に喰らい付いている2匹の竜ウロボロスの様な状況になる事だけは避けたい。

「第3大隊の状況はどうなっとる」

 第3大隊は、戦闘序盤の損害を補いつつも対ヘリボン戦闘を実施中の筈である。

「はっ。当初の混乱は収束できた様ですが」

「未だ、状況を報告する余裕すら無いというのか。臨時の指揮官では仕方ない面も分からんでは無いが。

 戦場での指揮官戦死など珍しくも無い、特に第一線の戦闘部隊なら尚更だろうに…」

「催促しますか」

「おう。状況が分からんでは、こちらから手を差し伸べる事も出来ん」

「了解しました」

「それと師団にもこちらの現状を報告しておけ。併せて情報収集もな、上級部隊の思惑、と云うか構想についてだな。状況は流動的だ、特に何も無ければ無しで良いが。

 とにかく、連絡を密にせよ」

「はっ、直ちに」

 まあ、指揮下部隊に求めるだけではな。とにかく、現状我が連隊は独立して行動してはいるが師団の作戦の一部である事は確かなのだ。必要なら増援を要求するし、状況によっては逆も有り得る。

 状況判断にせよ、決心にせよ、適時に必要な情報を獲得する事は重要である。特に状況判断に関しては目の前の局所的事象に囚われがちである。敵の欺騙に陥らない慎重さも、この際必要だ。

「第3大隊の状況が判明しました」

「よし、報告せよ」

「は、第3大隊は敵ヘリボン部隊に対し突撃を実施、応急陣地の突破に成功。離脱する敵部隊の追撃に移行しているとの事です」

「いかん! 第3大隊を直ぐに呼び戻せ。今は撃破したヘリボン部隊などに関わっている場合では無い、戦果拡張も必要ない。連隊は目標である敵兵站部隊に戦闘力を集中する」

「了解、命令を伝達します」

 ここで作戦企図について明確な指示を出しておけば、指揮下部隊も行動の準拠を理解し自主積極性の方向も定めやすいであろう。

「よし。現在の第3大隊の戦力は?」

「報告によりますと、1コ中隊規模に迄減少しております」

 大隊が一当りで中隊規模まで損耗か、敵が攻撃ヘリだったとは云え厳しいな。いや、戦車が10両以上残存した事の方が幸運だったのか。

「対空火器はどうか?」

「お待ちください、確認します…

 P―SAM(携帯地対空ミサイル)が2器、ZSUシルカが1両健在」

「よし分かった。第3大隊の残存は、本隊と合流後予備隊とする。状況により、対ヘリコプター専任だ。伝達せよ」

「了解、第3大隊は本隊へ復帰後予備隊、状況により対ヘリ専任。伝達します」

「と言う事です、補助官殿」

 私は、隣に影の様に控えている演習統裁部の補助官に対して自分の部隊運用に関する決心事項を明らかにする。

 とにかく、要所要所でこの様に決心事項などについて自ら、或いは補助官の求めに応じて表明する事で演習を円滑に進める事が出来るのだ。まあ、状況が切迫した場合は中々に厳しい所では有るが、そんな時こそ心に余裕を持つ必要が有る。これはその為の、まあ自分を律するいい訓練とでも思いたい。

「了解です、連隊長殿。演習部隊は引き続き現在地で待機願います」

「了解した」

 〈現在地で待機〉との補助官の言葉にあった通り、我が戦車連隊は敵の兵站部隊を目標に突進しているべき所なのだが、実際は全車停止している状況なのである。前衛の第1大隊も、その尖兵中隊についも同様である。現在移動しているのは、本隊に合流すべく行動中の第3大隊だけだ。

 勿論、統裁部からの指示によるものである。演習想定上は現在も前進している事になっているのだが、統裁上の処置という訳だ。

 私を含め連隊本部の参謀達もそれぞれの車両から降りて、統裁部の用意した車両に集合している。狭い車内で顔を突き合わせてはいるが、離れている体を演じなければならないと云う訳だ。

 演習を実効性の有る物とする為には、実動と指揮機能の両方を同時に検するには限界がある。その為の処置なのだ、状況に乗ってやるのも致し方ない。

「連隊長殿、統裁部指示です」

 先程の補助官が統裁指示を手渡してくる。内容に目を通していると、思わずと云った体で2科長が言葉を発する。

「連隊長、統裁部からは何と?」

 幕僚の中では彼が比較的経験が浅い、その分気負う所も有るのだろう。離れた車両に乗っている態を装わ無ければならない事をすっかり失念している。

 まあ、ここは場の流れを切らない様、大目に見てやろうか。

「ふむ。〈第21戦車連隊は、同第3大隊の残存部隊が合流した時点をもって前進を再開せよ〉だ」

「では、もうしばらくはこのまま現在地で待機と云う事ですね」

 この場で2科長との会話を聞いているその他の参謀達は、今頭の中で猛烈な勢いでこれから自分が為すべき事を列挙している筈だ。

「その様だな。

 補助官殿、確認なのだが、統裁部は部隊が前進を継続していたと云う事を前提に、じ後の状況を判断して貰えるのだな」

「はい、仰る通りです。

 ですので連隊長以下の皆さんは、もうしばらくこの場にて指揮・幕僚活動を頼みます」

「了解した。

 2科長(情報参謀)、先行させている尖兵中隊の動向を確実に掌握、敵に関する兆候を見逃すな。

 3科長(作戦参謀)は、砲兵大隊との連携について再度確認。特に各戦車大隊に同行するFO(前進観測員)の活用について情報共有させよ。又、上級部隊である師団司令部との連携についても怠るな」

「「了解」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ